「日本の中小企業は世界一ィィィ!」というイデオロギーめいたものも感じないわけではないが、そう思いたくなる方たちのお気持ちは分からんでもない。日本中が胸を熱くした「下町ロケット」に代表される池井戸潤作品では、「技術力のある中小企業、搾取する大企業」という構図がよく登場する。小さな会社は勤勉で誠実、大きな会社は強欲で卑怯というのは、戦後の日本人に刷り込まれた「常識」と言ってもいいのだ。
ただ、そういう先入観を一旦ちょっと脇に置いて、中小企業をめぐるデータを見ると、「中小企業の生産性が低いのは大企業が搾取している」という主張がかなりビミョーになってくる。もっとストレートに言ってしまうと、「実情はちょっと違うんじゃないの?」と感じてしまうのだ。
日本に419万社以上ある中小企業を対象に行った調査「中小企業白書2020年版」の中には、「受託事業者の現状」という項がある。下請法に基づく受託取引のある事業者を広義の下請事業者と捉え、その現状を分析したものだ。要するに、中小企業の中に「下請け」がどれだけあるのかを調べたものだが、そこに衝撃的な数字がある。
なんと、中小企業の中で下請事業者は「5%」程度しかいないというのだ。
ちなみに、この割合は直近5年間ほとんど変わっていない。「中小企業=大企業の下請け」というパブリックイメージが社会に定着して久しいが、実は池井戸作品に登場するような中小企業はわずか5%のみで、残りの95%は「大企業搾取」と無縁の存在だったのである。
日本の中小企業の生産性が著しく低いのは、各種調査で浮かび上がった厳然とした事実であり、政府も認めている。そして、日本の中小企業の中で、大企業の下請けになっているのは5%というのも、公的なデータに基づく事実だ。
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