「中小企業は大企業に搾取されている」という説は、本当かスピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2020年12月08日 09時37分 公開
[窪田順生ITmedia]

日本の生産性は低空飛行

 「そんなヨタ話が信用できるか! オレの周りには大企業から搾取されている下請けが山ほどいるぞ!」と怒りでどうにかなってしまう方もいるかもしれない。

 お気持ちはよく分かる。筆者もそういう下請け企業は、たくさん見てきた。競合に勝つためには価格を下げるしかなく、利益がほとんどでないと嘆く中小企業経営者の方の話を聞いたこともあるし、足元を見られて、取引先の大企業担当者を接待してかろうじて仕事を取っている中小企業の人も周りにいる。

 だから、そのような不平等な構造を変えていただきたいと心から願う。下請け企業の弱い立場を是正する仕組みが必要だという意見もまったく異論はない。ただ、そういう「個々の企業の問題」を、「生産性向上」という国の中小企業政策全体に結びつけてしまうのは、あまりにも乱暴だし、ちょっと違うんじゃないですかね、ということが言いたいのである。

 確かに、大企業が中小企業の弱い立場につけ込んで値下げなどを強いるような問題を是正すれば、5%の中小企業はハッピーだ。いわゆる“下請けイジメ”がなくなるので、中には生産性が上がる企業も出てくるかもしれない。しかし、残念ながらそれで中小企業全体の生産性は上がらない。

 繰り返しになるが、生産性というのは、労働者1人が生み出す付加価値のことだ。「社員が無駄話できないようにしてキビキビ働かせたら生産性が上がった」とか「デジタルトランスフォーメーションで生産性アップ!」というのはやや的外れな話であって、ごくシンプルに「賃金」と直結する問題だ。

 先進国の中で突出して低い賃金が固定化している日本の生産性がずっと低空飛行を続けている事実が、その動かぬ証拠である。

 「中小企業の生産性が低いのは大企業が搾取している」というのは、われわれ日本人が「半沢直樹」を見て感じるカタルシスにも通じるものなので、怒りを向けやすい。安倍&菅政権が終われば素晴らしい世の中がやってくる論と同じで、大企業という分かりやすい悪のシンボルをつくっておけば、誰も傷つかない安心感もある。

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