リテール大革命

2000種類の商品をVR遠隔陳列 ローソンが導入した“ロボット店員”がつかむ未来その名はModel-T(2/2 ページ)

» 2020年12月09日 07時00分 公開
[房野麻子ITmedia]
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 「あくまで必要なときだけ人が動かすようにしたいです。そのためには、人が直感的に操作したロボットの制御データが非常に重要になります。制御データを機械学習させて、ロボットの動く軌道計画を自動生成するべく、データを収集している最中です」(富岡氏)

 TX社は、ロボットが工場の外で使われる世界を目指している。そこで問題になるのが、コンピュータビジョン(コンピュータによる映像の認識や解析)と軌道計画の自動生成だ。人間は物体のどこをつかめばいいかが直感的に分かる。しかしこの“どこをつかめばいいのか”を、コンピュータはまだ正確に抽出できない。現在、ロボットを人が遠隔操作しているのはこのためだ。

 また、工場以外の実環境で動くことに適したロボットも少ない。実は工場はロボットに最適化された環境だ。ロボットに軌道の空間座標を教え、プログラミングして動くようにする。ロボットは工場という不変の環境で、ひたすら同じ動きを素早く繰り返し行う。この場合は1度、プログラムを作れば済むが、それ以外の環境だと変化するので、変わった瞬間に軌道計画をもう一度やり直さなければいけない。そのコストが非常に高いという。

 そこで「1つ1つ空間座標を打ち込まなくても、人が制御したデータを機械学習することで軌道計画を自動生成し、オートメーション化することを目指しています」と富岡氏は話す。

 現段階では人が遠隔操作しているロボットでも、再来年ごろには自動で動く状況になるかもしれないという。とはいえ、環境は変化するものなので「人の操作が完全になくなって100%自動化されることはない」と富岡氏はいう。「何か新しい変数が入ってきたときには人が操作する、ハイブリッドのオペレーションになります。割合はともかく、人間がコントロールする部分は残ると思います」

photo Telexistence社のニュースリリースより

“余剰の世界”で人がどう生きるのか見てみたい

 Model-Tの導入で、人がする作業のどれくらいをカバーできるかというデータは出てきているという。「狙う数値を出すために、変えるべきところは把握しています」

 TX社のWebサイトでは、Model-Tの作業中の動画を見ることができる。ゆっくりとした動作だが、もっと速くなるそうだ。ただ、「人と同じスピードで動く必要は全くない」と富岡氏。「例えば、お客さんの来る7時までに商品を陳列しなくてはいけないというとき、人間だったら30分でできるでしょうが、人と同じ30分やる必要はなく、7時までにやり終えればいい。そのレベルには到達できます」

 店舗スタッフからは、商品が売れた後、奥の商品を前に出してきれいに並べる前陳業務ができないか、掃除ができないかといった要望も上がっているという。これらについて、技術的には可能だという。後はコストとメリットのバランスの問題だ。

 TX社としては、人と同じ器用さを持ったロボットの手を作るという明確な長期目標がある。しかし、人の手の器用さを持った機械を作るには、手の関節で動くアクチュエータやモータをより小さく、一方でよりトルクが出るようにする必要がある。「これは物理法則に反しているので、素材を変えるとか、根本的な科学の問題になっていく」と富岡氏は指摘する。

 さらに長期的には、宇宙に人の活動が広がっていく過程の中で、遠隔操作ロボットが活躍する世界がやってくると展望している。「例えば月にいるロボットを地上から遠隔操作する。宇宙との通信になるので、インターネットとはまた違う話になりますが、そういうタイミングは遅かれ早かれ来ます。TX社としてそのシーンに携わっていたいです」

 モノをつかんで置くという作業は単純で、付加価値の低い仕事だ。そうした作業はキツいものが多く、富岡氏は「人がやるべきではないという考えを持っています。それをオートメーション化したいです」と話す。少子高齢化が進む日本では、間違いなく需要があるはずだ。

 「人間は食べるために働いていますが、それを早く終わらせたいです。ロボットが低付加価値の仕事を担い、人間の時間が余剰になったときに、人はどう生きていくのか。次の社会の在り方を見たいと思っています」

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