クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

2020年最も読まれた記事池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/6 ページ)

» 2020年12月28日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

トヨタの20年

 トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)は、実は単なるプラットフォーム群の名称ではない。トヨタという企業全体の強靭(きょうじん)化を図る事業改革の全てを含む概念である。

 そのきっかけは2008年に全世界を襲った未曾有の経済危機、リーマンショックであった。リーマンショックの直前の07年度決算で、空前の2兆2700億円の利益を計上したトヨタが、翌08年度決算では一転4600億円の赤字に沈んだのだ。

 なぜそんなことになったか? 実は、1999年には520万台という今のホンダと同等の規模だったトヨタは、07年までに930万台へと躍進した。目の前で売れていくクルマを生産することにトヨタは躍起になった。結果として、トヨタ生産方式の掟(おきて)を破って、ロットをまとめて大量生産するとか、スポット溶接の数を削って、工程を減らすなどの禁を犯した。

 そして、いざリーマンショックでクルマが売れなくなってみると、生産のフレキシビリティを失って、フル稼働でないとコストがべらぼうに掛かる生産設備や、そもそもクルマの質を落として量産ばかりを考えた結果、ユーザーの信頼を失うという負の遺産が残った。余談だが、それは今振り返るとトヨタが1000万台メーカーになるためには必要な無理だったかもしれないが、ブランドが受けた傷もまた大きかったのである。

 それにトヨタは正面から向き合った。そこからビジネスを強靱化する取り組みが始まった。製品に関していえば、基礎シャシーの開発と車両の開発を2段階に分け、ちょうどOSとアプリのような関係に置き直した。もちろん基礎シャシーは、設計前にそれをバリエーション化するための要素を全て織り込む。

 それによって、基礎シャシーを車両ごとにカスタマイズするのを止めた。というよりそれこそが目的の1つだったといえる。車種ごとに要求が変わる部分をカスタマイズしようとすると、手間とお金が意外にかかる。結局トータルでみた場合、専用シャシーとさして変わらないということが起きる。それはシャシーを部品と見なして共用しようとするから起きることであり、あらかじめシャシーに求められる変化幅を持たせることで、カバーレンジを広げたのである。

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