松田氏は「2019年に電子ピアノ・キーボードともに大幅なモデルチェンジを行ったことが勝機につながった」と話す。赤字が続いていたカシオ計算機では、なんとか事業を立て直したいと数年前から行動改革に着手。同社が取ったのは、「かつて楽器に触れていた20〜40代」を再び楽器市場に呼び戻す戦略だった。
「ピアノは学生時代の習い事として非常に人気が高いのですが、年齢が上がると楽器離れが進み、20〜30代の楽器演奏者率(プロを除く)は5%未満にまで落ち込みます。60歳を超えると再び演奏率が上がるため、ボリュームゾーンは5歳前後とシニア層。何とか20〜40代の層を狙えないかと考えました」(松田氏)
同社が実施した国内外のマーケティング調査によると、大人になって楽器を買わない理由は、「楽器の大きさ」や「機能の複雑さ」にあることが判明。大きすぎて部屋に置けない、ボタンの数が多くて操作を覚える気にならないといった理由で、興味はあっても購入をあきらめてしまうのだ。
そこで打ち出したのが、本格的な音質ながらコンパクトさを追求し、極限までボタンの数を減らした電子ピアノ・キーボードだった。楽器は学校教育に組み込まれていることもあり、10数年にわたり普遍的な操作性が重要視されているのだが、カシオ計算機は得意先である学校関係者のニーズを無視して、市場の声に振り切ったといえる。
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