フィンテックで変わる財務

2021年のキャッシュレス業界 銀行の逆襲が始まるか(6/6 ページ)

» 2020年12月31日 18時00分 公開
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 特に“焦り”のようなものは、「ドコモ口座」の事件を通じて明らかになった。原因の一端がドコモにあるのは確かだが、一方でそもそもの根本的な原因はWeb口座振替における金融機関側の本人チェックが不十分な点にある。最終的に金融庁の指導が入って、業界全体でセキュリティを強化する方向に向かうことが確認されたが、関係者らの話を聞く限り、被害に遭った地銀側の当事者意識の低さが目立ったという。

 ドコモ口座の件では、「セキュリティに問題がなく取引とサービスの早期再開を望む銀行」と「補償や検証の問題で紛糾し、再開対応に向けた動きが遅れた銀行」の2つに大きく分かれた。

今年2020年9月に開催されたNTTドコモの「ドコモ口座」問題に関する説明会見

 一連の取材を通じて分かったのは、「資金移動業者と接続するためのWeb口座振替の仕組みは収益源の1つ」「セキュリティの強化は未対応の事業者には負担が大きく、スマホ決済サービスの利用者を減らす要因になり得る」もので、銀行にとって痛し痒(かゆ)しの対応だったこと。また、ゆうちょ銀行の会見で分かったのは、時代の変化にトップが危機意識を持ってはいるものの、必ずしも組織全体がそれに合わせて動けているわけではないことだった。

 こうしたギャップを解消し、時代の変化に合わせて銀行がどう進化していけるのかが見られるのも2021年以降の大きなポイントかもしれない。

 まとめると、キャッシュレスの推進と政府の数々の施策に潜む思惑は「銀行の収益構造を変化させつつ、いかに金融取引を活発化させるか」という、ごく当たり前の視点に沿って実行されていることが分かる。キャッシュレス推進は取引活発化のための施策だが、同時にウィークポイントとして「これまでキャッシュレスをあまり利用してこなかった層をどう取り込むか」という点があらわになりつつある。それを解決するのが「スマホ決済」や「(ミレニアルを対象とした)新しい銀行サービス」であり、今後社会の主役となる若年層を早期に金融システムへと組み込んでいくことにある。

 当面のターゲットは「キャッシュレス決済比率40%達成を掲げる2025年」となるが、同時期に開催される大阪万博に向けては、MaaSなどのスマートモビリティやスマートシティの研究も進んでおり、すべてが25年を目標に動いている形だ。こうした背景を鑑みつつ、21年以降のキャッシュレス業界を俯瞰(ふかん)していると、より面白いものが見えてくるかもしれない。

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