外貨決済の“隠れコスト”とは? トランスファーワイズが複数通貨対応デビットカード

» 2021年01月26日 19時17分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 日本人にとって“コストの塊”だった海外送金や外貨決済が、次第に変化してきている。高コストなSWIFTを利用しない国際送金サービスとして、認知度が高まっているトランスファーワイズは1月26日、同社の複数通貨対応口座からの支払いに対応するデビットカードの提供を発表した。

ドルやユーロなどの通貨での支払いに対応するトランスファーワイズのデビットカード

 このデビットカードでは、利用者が、海外で現地通貨建てでの支払いや、オンラインで確認可能なカード番号を利用して海外のオンラインショッピングなどに利用したり、海外ATMで現地通貨を引き出すことも可能にした。

 最大の特徴はコストの削減だ。例えば、通常のクレジットカードで海外のオンラインショップで買い物をした場合、そこには「外貨取扱手数料」に加え、コストが上乗せされた為替レートが適用される。この上乗せされた為替レート(マークアップ)は、通常非公開であり多くの場合、6%程度もコストが乗っている。

 トランスファーワイズ・ジャパンの勢井美香ディレクターは、「従来は海外で利用するたびにマークアップされた為替レートと外貨取扱手数料がかかる。トランスファーワイズでは、他の通貨での手数料や為替レートに追加できるマークアップがない。隠れコストがない」と話す。

 トランスファーワイズのデビットカードでも手数料は発生するが、Webページで事前に手数料を確認できるだけでなく、非常に安価だ。為替レートは購入レートと売却レートの中間に当たる「ミッドマーケットレート」として提示され、売買ともに同じレートが使われる。そこに手数料が乗る形だ。手数料は「他社の5分の1だ」と勢井氏は言う。

1万円をドルに替えてデビットカードで支払う場合でも、手数料を60円に抑えている(トランスファーワイズWebより) 
売買スプレッドがない為替レートを「ミッドマーケットレート」として利用する(トランスファーワイズWebより) 

 マークアップという形で乗せられたコストが、売買価格のスプレッドとして提示されるという不透明な従来の為替コストを、トランスファーワイズは批判している。「マークアップレートを義務付ける法律がないことに起因している。66%が最も安い選択肢を特定できていない。消費者にとって比較が困難になっていることが原因だ」(勢井氏)

 この不透明なコストは決して小さな額ではない。国際送金や決済に関連して2019年に日本人が支払った手数料は、合計970億円と試算されている。このうち外貨取扱手数料が760円、マークアップによる“隠れコスト”は167億円にのぼるという。

留学生や海外駐在者だけでなく、旅行者や海外でオンラインショッピングをする人たちが、トランスファーワイズのデビットカードの潜在ユーザーだ(トランスファーワイズ資料より)

 このデビットカードは、個人と法人向けに提供する。個人向けはカード発行手数料として1200円(税込)、法人は口座開設時に3000円の入金を行えば発行する。国際ブランドはMastercardでタッチ決済にも対応する。

 トランスファーワイズの複数通貨対応口座は「マルチカレンシー口座」と呼ばれ、50種類以上の通貨が保有できるようになっている。例えば、デビットカードを使ったドルでの買い物なら、ドル口座から引き落とされるが、もしドルを持っていない場合でも、保有している他の通貨の中から、最も為替レートが有利な通貨から自動的に両替され支払われる機能も提供する。利用するごとに、アプリへのプッシュ通知やEメールで利用履歴が送られるほか、スマホアプリからカードを簡単にロックすることもできる。

 同社創業者のクリスト・カーマンCEOは、「日本市場は非常に重要だ。アジアでの第一の市場として日本でローンチした。シンガポールや香港と同時期だが、日本のほうが先だ。アジアの中でも最大の顧客ベースを持っている市場の1つ。さまざまな商品展開をしていきたい」と話した。

トランスファーワイズ創業者のクリスト・カーマンCEO

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