デジタル時代の会社組織では、正社員の役割が「変貌する」かもしれない理由デジタル時代の人材マネジメント(1/2 ページ)

» 2021年02月09日 07時00分 公開
[内藤琢磨ITmedia]

バズワード化しつつあるジョブ型人事制度

 経団連は先日、企業向けにまとめた春闘労使交渉の指針「経営労働政策特別委員会報告」で昨年に引き続き、「ジョブ型」雇用制度の積極的な導入を呼び掛けた。

 既に昨年の経団連の提言を契機として、日立製作所、富士通、資生堂、三菱ケミカル、KDDIといった日本のリーディングカンパニーがジョブ型をコンセプトとした人事制度改革を打ち出している。一方で多くの企業経営者、人事部門は職務・役割をベースに人事制度もキャリアパスも一新していく検討を行っているが、具体的な制度設計の段階ではそもそもの雇用環境の違いを勘案すると、ジョブ型雇用に舵を切ることは容易ではない。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 欧米と日本では、企業を取り巻く産業構造上の違い、中でも欧州に存在する職種別賃金水準に関しては、全く異なる構造を有している。

 欧州では属する産業が違っていても、同じ職種であれば、各企業はそのベースとなる職種別賃金データを参考にして企業内賃金水準を検討する。例えば、塗装職であれば、クルマのボディーの塗装だろうが船舶の塗装職だろうが、それぞれの企業人事や労働組合は、ほぼ同じ職種別の賃金水準データを参照しながら、企業内の職種別賃金を検討する。こうした背景から、ジョブ型という理念をリアルな報酬制度に反映できる。

 一方、日本型人材マネジメントでは、企業が長期雇用や終身雇用を前提に、職務遂行能力向上という名目のもと、社員にさまざまな職務を担当させる「ゼネラリスト型育成モデル」がいまだ主流である。こうした育成モデルを維持したままでは、ジョブ型のコンセプトを本当の意味で実現するのは不可能である。

 結果としてジョブ型雇用導入には、相応の社会的な環境整備が必要である一方で、デジタル化の流れはヒトの処遇を外部市場価値ベースとすることを促すものであることから、外部市場価値が既に存在すると思われる専門職種に関しては、業務の専門家やスペシャリストの配置や外部採用が促進されるだろう。

会社組織と社員の定義が変わる?

 デジタル化によるテクノロジーの進展は、会社組織のありようや社員の定義にも影響を及ぼす。デジタルの時代では新しいビジネスのアイデアを具体的なサービスやプロダクトにするまでのプロセスやコスト、組織・人材といった自社で抱えなければならないリソースが各段に低下するからである。

 テスラモーターズは2003年創業だが、各種報道によると、既に20年度は四半期ベースで10万台を超える生産体制を確立しているようである。その多くは、他企業との共同開発や生産委託だ。電子モーターによる運転システムも、さまざまな外部企業との共同開発の成果であろう。

 今や3Dプリンタやデジタルでの画像解析技術を活用すれば、個人、大企業にかかわらず、いろいろなアイデアをもとに試作したり、小規模生産ができたりする。特に新しいアイデアの具現化という領域では、それほど規模の優位性が効かなくなってきているのである。

 過去の若者は「将来こんなことをしたい」と考えても、まずは大企業に入ってそこで出世し、大きな組織の権限を持つところまではじっと我慢しなければならなかったが、今の若者はスタートアップやフリーランサーという立場で自身のアイデアを磨き、必要に応じて投資ファンドや大企業から資金を獲得し、やりたいことにすぐにチャレンジする直線的なキャリアパスを志向するようになった。

 スタートアップ企業に所属する若者がたった一人で大企業の社員とディスカッションする場面では、大企業側は複数の部署から上司と部下がそれぞれ参加した末に、難しい意思決定を迫ると「会社に持ち帰って担当役員と相談する」という回答しかできないといったことは、よく言われている笑い話である。

 デジタル時代に限らず、新しいアイデアや先端テクノロジーは必ずしも企業内に存在するわけではない。大企業であっても、スタートアップを含む他企業やフリーランサーと企業組織の枠を超え、いわゆる「エコシステム」を形成し、協働していくことが一般化する。

 これは企業サイドのメリットも大きいといえる。

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