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いま注目の自律分散型組織「ティール組織」とは何か?コロナ禍で(3/4 ページ)

» 2021年02月24日 07時00分 公開
[企業実務]

 4人で創業したこの組織は急成長し、現在、オランダ国内で1万5000人以上の看護師・介護士らが活躍しています。

 1990年代頃から、オランダでは在宅ケアの効率化・分業化が進みました。その結果、ケア行為は画一的かつ断片的になり、業界もより安いコストで質の低いケアを提供するようになります。利用者は毎回変わる看護師に、いちいち自分の症状を伝えねばならず、看護師も目の前の「やらなければならないこと」に追われ、やりがいを見いだせずに、離職する人が後を絶ちませんでした。

 看護師がケアの全てのプロセスに責任をもち、その専門性を存分に発揮する場をつくれば、コストを抑えたまま質の高いケアを提供できるのではないか。そういう思いから、ビュートゾルフは生まれました。

 ビュートゾルフの驚くべきことは、1万5000人ものメンバーを抱えているのに、マネジャーやチームリーダーが1人もいないことです。バックオフィスに約50人、そのなかの半分ほどはコーチ役です。彼らは、あくまで現場のサポート役であって管理役ではありません。

 現場では最大12人の看護師がチームとなり、利用者のケア、看護・介護職の採用・教育、財務等全てに対する裁量と責任が与えられています。利用者中心の考え方のもと、日々現場でユニークな支援メニューが展開されています。

 オランダでは業界内でトップクラスの顧客満足度を誇り、従業員満足度ランキングでは業界を越えて1位に輝くなど、驚くような結果を残しているのです。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 もう少し具体的に自主経営という特徴にみられる仕組みを見ていきましょう。組織構造が如実に現われるのが意思決定の方法です。

 従来の組織でよく使われている意思決定の方法が上長による決定(承認プロセス)やコンセンサスなどの会議によって決定する方法などですが、ティール組織ではこれらの方法はほとんど使われません。代わりとして比較的よく使われているのが、「助言プロセス」というものです。

 組織内の誰もがどんな決定を行うことも可能で、ハサミなどの備品の購入から、プロジェクトの予算、採用、場合によっては自身の給与まで決めることができる組織もあります。

 その際、その意思決定の事項に関して専門性の高い人物、あるいは影響がありそうな人物にアドバイスを求め、それらを真摯に考慮しなければいけませんが、最終的には自ら決めることができるのです。これにより意思決定スピードが速まるだけでなく、その組織内の他責文化が激減し、エネルギッシュな職場に変化していきます。

 この意思決定の方法が機能するためには、組織メンバーの信頼関係の構築、情報の透明化、存在目的の共有などが欠かせない要素になってきます。ほかにも、さまざまな方法が進化段階の組織では発明されていますが、従来型の組織との違いは図表2の通りです。

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(2)「存在目的」という特徴

 ティール組織では上下関係でマネジメントを行うという考え方を手放し、一人一人あるいは現場のチームで自己決定しながら日々の仕事をこなしていくことになります。

 そこでよりどころになるのが存在目的なのですが、これは従来の組織のミッション、ビジョン、バリューとは少し違う概念になります。

 F・ラルーは、最近の組織活動における「目的」とのかかわり方に警鐘を鳴らしています。一つは近年の組織の目的が「最大化」と「生存」に傾いてしまっているということです。いかに耳当たりのよい文言を並べ立てていても、日々の活動の判断軸が「いかに成長するか」「どうやったら生き残るのか」という視点になっているというのです。

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