1.アルムナイの求めている体験の把握
2.コミュニティー活性化に向けた仕掛け
3.退職者を「裏切り者」としない組織風土づくり
(マネジメント層からのメッセージ、オフボーディングプロセスの整備)
まず着手すべき事項は、アルムナイの志向性や求めている体験を把握することである。アルムナイとの関係構築は会社側の一方的な思いだけでは成功しないことを再認識したい。会社側が再雇用を期待するあまりに、アルムナイの志向性・期待を無視したメッセージを一方的に発信することで、アルムナイ側の失望を招き、結果的にアルムナイネットワークへの参加率が低下したという話はよく耳にする。あくまでも両者にとってメリットが感じられる関係づくりが基本である。
次にアルムナイコミュニティーの活性化に向けた仕掛けづくりである。個人によって求めている活動は異なるため、志向性によってアルムナイをグルーピングし、各グループの志向性に合ったイベントを開催することを検討したい。
先進企業の事例を踏まえると、アルムナイのなかに各メンバーの志向性や要望を把握して企業側とコミュニケーションをとったり、アルムナイ内部のコミュニケーションを促進するなど「コミュニティーマネージャー」の役割を果たすメンバーがいることが活性化のカギとなると考えられる。
最後に退職者を「裏切り者」としない組織風土づくりである。人事部門がいくらアルムナイネットワークの構築や活性化に取り組んでも、現場の管理職層が退職者に対してネガティブな感情をもって接していたのではネットワークの活性化は難しくなってしまう。
まずはマネジメント層が会社としてアルムナイとの関係構築に投資すること、退職によって関係性が終了するわけではないことをメッセージとして発信することが望まれる。同時にオフボーディングプロセス(退職までのプロセス)を整備し、そこでの体験価値を高めることも重要なポイントとなる。退職後にも良好な関係を維持するためには「よい別れ方」をすることが不可欠だからだ。
退職する従業員にネガティブな体験(面倒な退職手続、上司からのネガティブな発言)をさせないということが主眼となるが、これまでの貢献に対する感謝と次のキャリアでの成功を願うメッセージを伝えることも有効な手法である。
例えばPwC ネットワークの海外のメンバーファームのなかには、退職者の最終出社日に、上司から在籍期間における貢献に対して感謝を述べることを退職時のプロセスとして設定しているファームもある。
本稿を通じて、アルムナイに対する取り組みは退職者の再雇用に限定されるものではないことをご理解いただけたのではないかと思う。議論をもう一歩進め、アルムナイネットワークの活性化を人材マネジメント全体の変革の文脈に位置付けてみたい。
近年、日本企業では「ジョブ型」の人材マネジメントへの変革に対する関心が高まっている。これはデジタル人材の獲得競争の激化などを背景としたものであるが、大きな変化は「人と組織の関係」にある。これまでの日本型の人材マネジメントは「組織からの保護と組織に対する忠誠心」であったが、これを「お互いの求める・提供可能な価値を把握し、提供し合う対等な関係」へと移行することが、改革のメインテーマだと考える(図表)。
このような関係性において、退職は決して裏切りではなく、組織と個人の提携関係の終了にすぎない。その後も必要性があれば再度、提携関係(雇用を意味するとは限らない)を結ぶ可能性もあり、そのためにアルムナイとは良好な関係を維持する必要があるのだ。
このように考えると、人材マネジメントの変革は、アルムナイとの関係構築抜きに行うのは難しいことがお分かりいただけるのではないだろうか。関心が高まっているアルムナイの領域だが、アルムナイとのリレーション構築に限定せず、人材マネジメント全体を見直す契機となることを願って本稿の結びとしたい。
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