本連載では、高年齢者活用というテーマの中でも企業の関心が最も高いであろう、「65歳への定年延長(あるいは70歳までの雇用)」を取り上げ、各企業の実態に即した定年延長の進め方や、実際に定年延長を行った企業の実例をもとにした成功ポイントを解説します(著者:森中謙介)。
定年延長を含む、高年齢者活用の進捗度合いは企業によって実にさまざまです。それは大企業でも中小企業でも同様です(中小企業でも先進的な取り組みで成功しているところは少なくありません)。
企業の高年齢者活用への取り組み状況について、筆者は「先進型/様子見型/放置型」という3つの分類を用いています。それぞれの特徴は、組織の高年齢化に対する向き合い方の違いとして表れます。どのような違いがあるのか、見てみましょう。
組織年齢構成の中長期的な変化を見越して要員計画を立て、他社に先んじて高年齢者活用に戦略的かつ継続的に取り組んで成果を出している企業のタイプが「先進型」にあたります。
先進型の企業では65歳への定年延長を既に行っているところも多いですが、全体傾向としては限られたごく一部の企業ということになります。
高年齢化に伴い発生する課題について、ある程度把握しているものの、さまざまな制約から取り組めていない企業のタイプが「様子見型」にあたります。現実には一番多いタイプといえるでしょう。
計画的に準備が進められているのであればいいのですが、大半の企業では「まだ具体的な問題が起きているわけではない」「他社でも取り組みが少ないから急がなくてよい」というような理由から現状維持を良しとしている風潮があるように感じます。そうした企業の中では、リスクの大きさを過小評価してしまい、「気が付けば問題が大きくなっていた」というような例もあります。
高年齢者活用について現時点でさまざまな問題を抱えながら、取り組みを後回しにしてしまっている企業のタイプが「放置型」にあたります。これらの企業の多くでは、外部から最低限の情報を仕入れることもできておらず、「何から取り組んでいいか分からない」という状態に陥っています。早急に対策を行わないと短期的な業績に悪影響を及ぼす可能性のある企業も少なくありません。
大半の企業が「様子見型ないし放置型」であるという前提に立ち、ごく一部の成功事例である「先進型」との違いを一言で説明するとしたら、それは「組織の現状分析の質」にあります。そして、「定年延長をするために、何から取り組めばいいのか?」という問いに対しては、必ず「現状分析」からスタートすべきと、筆者は考えます。
より正確には、現状に加えて、中長期的な視点を含む将来分析(高年齢者活用に関して自社の現状にどの程度問題があるのか、あるいは現在は問題が無いとしても、将来的に問題が起こり得るのか、だとするとそれはどの時期で、どの程度の問題が起こり得るのか、といったこと)まで行うことができれば、取り組みの内容およびスケジュール感についても自ずと明確になっていきます。
誤解を恐れずにいえば、定年延長を行うことを前提に議論を進めてきたものの、現状分析の結果、「定年延長は時期尚早である」として見送るケースも十分にありえます。
さまざまな情報を多面的に検証した結果、経営トップを含む経営層全体で「定年延長はしない(=今すぐ行うべき必然性は認められない)」という結論に至ったのだとすれば、その検討プロセス自体は有意義なものですし、今後状況が変わった際にあらためて議論を行う場合もスムーズに運ぶはずです。同じようなケースで、結果的に定年延長を見送ったことが経営判断として正しかった、という事例も見てきました(後述)。
ここからは「定年延長」を前提とした現状分析の方法について、具体的に見ていきましょう。
ある程度の手間はかかりますが、順を追って取り組んでいただくことで、定年延長に向けての質の高い議論が社内で展開できるはずです。もちろん、これらは筆者が提示する方法論の一つであり、唯一の方法ということではありません。企業ごとの実態に沿って、必要な方法をチョイスしていただければ幸いです。
現状分析の方法は大きく3種類あり、筆者は「人員分析」「賃金・人件費分析」「職場環境分析」と呼んでいます。ここから先は、それぞれの手法を簡単に解説しつつ、最後に、現状分析の結果として定年延長に対する方針を決定した企業事例についても紹介していきます。
人員分析の手法とは、簡単にいえば、将来的に高年齢者層のボリュームがどう変化するか、そのことにより組織内でどんな問題が起こり得るのかを推察する中で、定年延長に向けた方針を検討する方法です。
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