本連載では、高年齢者活用というテーマの中でも企業の関心が最も高いであろう、「65歳への定年延長(あるいは70歳までの雇用)」を取り上げ、各企業の実態に即した定年延長の進め方や、実際に定年延長を行った企業の実例をもとにした成功ポイントを解説します(著者:森中謙介)。
定年延長に伴って人事制度(等級・評価・賃金制度)の見直しを行う際、企業によっては退職金制度(退職一時金制度、企業年金制度)の見直しが非常に重要かつ難しい課題となります。
退職一時金制度を例にとると、大半の企業では、いわゆる「最終給与比例方式」が採用されています。退職金の支給額が、退職時の基本給×勤続年数に応じた支給率により決定される方式です。
この方式では、一般に退職金のカーブは勤続年数が長くなるごとに上昇幅が大きくなっていきますので、仮に60歳→65歳への定年延長によって5年間退職金の計算期間が延長される(その間に基本給が増加し、勤続年数別の支給率が増加する)ことになると、会社の想定以上に退職金の負担が増加する恐れがあります(図表1)。
もちろん、上記はかなり一般化したモデルであり、退職金制度の詳細、設計方針は各企業によってさまざまです。仮に定年延長に伴って退職金が増加したとしても、シニア社員のモチベーションアップが見込まれるため許容するなど、積極的な投資として捉える企業も存在するでしょう。
とはいえ、総額人件費の上昇をできるだけ抑える工夫が必要と考える企業が大半でしょうし、退職金制度の問題がネックになって定年延長の検討が進んでいないという企業も少なくありません。
また、自社の退職金制度の運用方法として企業年金制度(ここでは、確定給付企業年金=DBおよび、企業型確定拠出年金=DCを想定)を採用している企業では、見直しに当たって法令上の制約を受けることもあるため、より注意が必要になります。
そこで今回は、上記のような課題認識のもと、定年延長に伴って企業が注意すべき退職金制度の見直し方法について、「退職一時金制度」「企業年金制度」それぞれの観点から整理・解説していきます。
なお、一部退職金支給にかかる税務上の取り扱いに関する記述については、全てのケースに当てはまるとは限りません。実際の取り組みに際しては、国税局や所管の税務署に確認を取りながら検討を進めるように留意してください。
まず、定年延長に伴う退職一時金制度の見直し方法について見ていきます。ここでは前提として、定年年齢を60歳から65歳に延長するケースを考えます。中心となる検討ポイントは、60歳以降の部分について退職金の増額を行うかどうかであり、基本方針としては大きく以下の3つに分けられます。
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