定年延長に向けた人事制度改革(3) 同時に導入「65歳への定年延長」と「70歳までの継続雇用」の成功事例定年延長のリアル(1/2 ページ)

» 2021年04月28日 05時00分 公開

連載:定年延長のリアル

本連載では、高年齢者活用というテーマの中でも企業の関心が最も高いであろう、「65歳への定年延長(あるいは70歳までの雇用)」を取り上げ、各企業の実態に即した定年延長の進め方や、実際に定年延長を行った企業の実例をもとにした成功ポイントを解説します(著者:森中謙介)。

 65歳への定年延長は既に完了し、さらに70歳までの継続雇用(現在の高年齢者雇用安定法では「努力義務」)まで正式に制度化する先進企業の事例が出てきています。

 先日、明治安田生命保険が2021年4月から、定年後の継続雇用の上限年齢を65歳から70歳に引き上げたという記事が出ました(SankeiBiz「明治安田が再雇用70歳まで延長 制度刷新、シニア層の就業機会拡大」21年4月19日)。

 同社が65歳への定年延長に踏み切ったのは19年、これは大手企業の中でも早く、業界内でも先駆けの存在です。中長期のスパンで計画的にシニア活用を推進しており、記事によれば、同社は30年までに70歳定年制度(総合職シニア型を対象)を導入する方針を掲げているようです。先進企業とそれ以外の企業の差は開くばかり、という印象を受けます。

photo 写真はイメージ(提供:ゲッティイメージズ)

 65歳への定年延長はもとより、70歳までの継続雇用の制度化についても数年内に取り組む企業が増えてくると予想されます。もちろん、焦って不必要な制度改革を行う必要はないものの、遅きに逸したということにならないよう、各社で具体的な検討が活発に行われていくことを期待します。

 さて、今回は企業事例紹介の2回目ということで、65歳への定年延長と、70歳までの継続雇用の仕組みを同時に取り入れた事例を紹介します。

シニア層のモチベーションが高いとはいえなかったB社

 中堅製造業のB社(60歳定年制。定年後は継続雇用制度により希望者を65歳まで雇用)では、全社員に占める60歳以上のシニア層の割合が15%程度と、年々高年齢化が進んでいます。かといって中間層が厚いわけでもなく、また65歳以上の社員の割合も、一般的な企業と比べると多い状況でした。体調に配慮しつつ、今後5年、10年のスパンではシニアの活性化・戦力化を促進することが重要な課題であり、人事制度改革に取り組むことになりました。

 同社のシニア人事制度は一般的な定年再雇用制度を採用しており、60歳定年後は希望者を65歳まで継続雇用する仕組みです。ただし、定年前と同じ仕事をしているにもかかわらず賃金水準は大幅に低下することと、人事評価なども実施されないため、シニア層のモチベーションは高いとはいえない状態でした。また、諸手当、賞与が不支給となっているため、同一労働同一賃金の面で、法律上も適正な運用に課題がある状態と考えられます。

 65歳以後に関しては対象社員との個別契約で雇用を続けているものの、体系的な人事制度は整っていませんでした。

 上記のような組織・人事制度の状況を踏まえ、同社は今後さらに高年齢化が進展していくことの危機感から、抜本的なシニア活用に向けた取り組みの必要性を感じ、「65歳への定年延長」「65歳から70歳までの継続雇用」の仕組みを同時に取り入れる方針を決定しました。以下、それぞれの仕組みについて旧制度との比較をしながら概要を見ていくこととします。

(1)65歳への定年延長と人事制度

 同社が定年延長を行うに当たって、人事制度上で変更した点は次の通りです。

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