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働く母に起きた“事件”──誤解だらけの「選択的夫婦別姓」と「家族の一体感」という呪い河合薫の「社会を阻む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)

» 2021年03月12日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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 法務省が発表している殺人事件の動向によると、16年に摘発した殺人事件(未遂を含む)は770件で、1979年に比べほぼ半減しました。ところが、親族間が占める割合は44%から55%に増加。実に半数以上が“家族間の悲劇”で占められています。

 実際の検挙件数そのものは半減しているので、親族間殺人がいかに増加していているかが分かるはずです。  

 このような家族間の悲劇は、04年以降急増し、その背後には経済的困窮と超高齢化による介護問題があると指摘されています。

 2000年代に入り非正規雇用は急増。正規雇用の会社員の月収も01年を境に下降に転じました。核家族が当たり前になり、共働きも当たり前になりました。その一方で、地域の結び付きは弱まり、「孤立する家族」が量産されました。

 つまるところ、「家族の一体感」というような家族イデオロギーに基づいた価値観が、家族を追い詰めている。介護や育児、貧困など他者の助けを借りる必要のある問題を、自己責任にすり替えたことで家族間の悲劇が増えている。そう思えてなりません。

 選択的夫婦別姓を認めると、「家族単位の社会制度の崩壊を招く可能性がある」のではなく、すでに崩壊にしているのです。血がつながっていなくとも深い愛情でつながっている親子はいるし、婚姻関係がなくとも、深い信頼関係で結ばれている二人はいます。

 家族のカタチが変わる中で、働く男性と働く女性、主婦と主夫、といった具合に、役割も多様になりました。であればビジネス上の合理性を考え、どのような立場でも働きやすく暮らしやすいよう、選択肢を持つべきではないでしょうか。

変わる社会の中で、夫婦別姓の選択肢を持つことが求められている(写真提供:ゲッティイメージズ)

 夫婦に別姓を認める制度を作ることが、なぜ、世界で広がっているのか? 答えはシンプル。「全ての人が自由に、幸せになれる社会」があるべき姿だからです。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。


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