クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

バッテリーEV以外の選択肢池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)

» 2021年03月22日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

合成燃料の未来

 水素以外の補完系エネルギーといえば合成燃料である。合成燃料には大きくわけて2つある。バイオ系と化学系だ。バイオ系は一時期トウモロコシから作ることで話題になった。これらの人間の食物と競合するバイオ燃料を第一世代という。途上国で食糧危機が起きて子どもたちが餓死していく中で、先進国が金にものをいわせて、食料を燃料化するのは怪しからんと問題になった。

 そこで第2世代では、人間の食物と被らない原材料を使うことになった。日本の場合、主力は藻類である。藻類を遺伝子技術を用いて改良し、燃料として質の良い炭素連鎖構造を持つ油を製造することに成功したのは日本のユーグレナ社だ。ユーグレナでは、バイオジェット・ディーゼル燃料の生産の実証実験プラントを稼働させていたが、ついに2020年1月30日にバイオジェット燃料の製造技術の国際規格である「ASTM D7566規格」を取得した。

ユーグレナは、原料に微細藻類ユーグレナ由来の油脂と使用済み食用油等を使用してバイオジェット燃料を開発した(ユーグレナ)

 重量当たりエネルギーが極めて重要な航空機において、少なくとも現状ではバッテリーは相性的に難しい。もちろんバイオ燃料も現時点では高コストという問題をはらんでいるが、そこが改善されれば、一方で、既存のエンジンをそのまま使える。つまり機体も含めた機材が、そのまま、あるいは小改修程度で使うことができる。

 ということで、藻を使ったバイオ燃料は航空業界のカーボンニュートラルへの大きな一歩となる可能性がある。当然それは航空機のみならず、内燃機関全般に使える。世界の先進国にとっては、産業構造を大転換しなくても既存のエンジン技術を生かしてカーボンニュートラル化への道が開けるという都合の良い技術なのである。

 さて、さてもうひとつ挙げた化学系には、アンモニア系と水素系の2つがある。どちらも常温で保存、輸送が可能な液体燃料で、高圧水素よりハンドリングが容易だ。ただし、アンモニアには毒性があるので一般市販用の燃料としては向かないが、例えば火力発電所の置き換え燃料としては、有用な手段である。経産省のカーボンニュートラル計画では、石炭・石油系火力発電所のアンモニア燃料への置き換え計画は重要な柱の一つとなっている。

 水素系は、最近よく耳にする「e-fuel」のことを指している。大気中に存在する二酸化炭素を水素に化合させて液体化したもので、もちろんこの二酸化炭素は燃焼時に放出されるのだが、そもそも製造時に大気から取り入れたもので、差し引きはゼロである。

 現在世界中の伝統的自動車メーカーのほとんどが、バイオ系または化学系の合成燃料の開発に取り組んでおり、これらは後々、モビリティの中で一定の割合を占める可能性が高いと思われる。なぜならば、コストの問題さえ解決すれば、旧来の石油系の供給インフラと整合性が高く、給油毎の航続距離も石油系燃料に近いからだ。ユーザーにとっては日常の利便性においてデメリットがほぼ発生しない。

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