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マニュアル化で1年目から全員酒造り 日本酒「紀土」の平和酒蔵に大卒しかいない理由平和酒造4代目が考える「個が立つ組織」【後編】(3/5 ページ)

» 2021年05月27日 12時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

マニュアル化がカギ

――作業工程を共有することで、属人化を防ぐことも可能になりますね。

 もともとは杜氏が全ての工程を監督するポジションだったわけです。杜氏しか知り得なかった情報をマニュアル化して、当社では入社した社員にそれを渡すということをするようにしました。

――しかし、杜氏にとってはなかなか受け入れがたいことだったんじゃないでしょうか。

 時間はかかりましたが、僕が「会社を今後こうしていきたい」と粘り強く説得し続けたこともあり、最終的には納得してくださいました。これによって職人一人一人が技術もマニュアルで分かっていて、麹や酵母の発酵温度が部署に関わらず分かるとなると、多様な議論が生まれるようになるんですね。

 「Aというタンクは発酵が緩慢やね」とか、「Bの作業は良い感じでいってるね」とか、「Cはもうちょっと工夫したほうがいいんじゃないか」とか、社員同士が話し合うようになったんです。このように社内が変わったことが杜氏にも刺激になったようで、狙いを理解してもらえてよかったです。

――なぜ、マニュアル化を進めようと考えたのでしょうか。

 最初にマニュアルで一連の工程を理解しておくことで、杜氏の言葉について自分から考えられるようになるからです。時代は変われど、相手が人間であることは変わらないですし、酒造りの現場の難しさや厳しさは昔とあまり変わっていないと思うんですよ。

 例えば、朝の作業で発酵タンクに水を入れる作業があります。AからCのタンクがある中で、Cのタンクにだけ杜氏から必死なけんまくで「それ急いで持ってけ」といわれるとします。いわれた側は「何でCだけ?」と思うわけですが、これにはCだけ発酵が遅れているからというきちんとした理由があるわけです。

 事前にマニュアルで理解しておけば、言葉の裏にある意味に気付きやすくなるわけですが、それを知らされないまま新人としてこき使われているだけだと、違った受け止め方をする可能性が出てくるわけです。

 僕としては、従業員一人一人が自分ですぐに考えられるようになるよう、酒造りのマニュアルを入社と同時に渡しています。だからこそ、自分の力で考えられる人材に入ってきてほしいと思っています。

(撮影:乃木章)

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