トヨタは今期の決算分析で扱いが最も難しい。端的にいってチート級の滅茶苦茶な結果を叩(たた)き出していて、常識的な範疇(はんちゅう)の言葉ではどうにも解説できない。100点満点で1万点とか、そういう論理を超越した次元である。
おかしい所だらけだが、中でも特におかしいところを挙げれば、まず売り上げがおかしい。決算というのは、基本的には対前年比でプラスかマイナスかを判断するものだ。前年が良すぎたので「減収」にこそなってはいるものの、少し乱暴に言えば標準値の範囲に収まっている程度の差しかない。1Qが壊滅的だったにもかかわらずだ。
これは、コロナ禍でラインが止まっている間に、下半期での需要反動を予測し、ロケットスタートに備えて、増産態勢をあらかじめ整えていたからなのだ。しかし米国ではコロナ禍で世界大戦級の死者が出て、国際社会全体が先行きの閉塞感でにっちもさっちも行かない中で、そんな判断ができるのは尋常ではないし、実行してみせるのはもっと尋常ではない。
税引前利益もおかしい。普通は売り上げが落ちたら、それ以上に利益は落ちる。それが当たり前だ。そこで利益が増えるとしたら、自由落下運動の最中に手で空気を搔いて、落下を止めるどころか上昇を始めたような漫画じみた現象で、ルパン三世の世界である。
売上高と営業利益は前年比マイナスだが、営業外損益がほぼ倍増して、税引前利益と純利益はプラスとなった。営業外損益は7346億円にも上るが、その多くは「受取利息および受取配当金」とみられる。つまり、関連会社からの配当金や、関連会社株の売却益が純利益増に貢献した可能性が高い
世界が崩壊の危機に瀕して、先進諸国を巨大な経済ショックが襲う局面で、利益率を大幅改善しているという点では、もはや魔法でも使ったのかと言わざるをえない。
ということでトヨタの決算はもうわけが分からない。個別には種も仕掛けもあるが、それが全部上手くいくなんてのは打率10割のチートである。
- 減収減益の日産決算 21年度は440万台、黒字化目指す
日産自動車は5月11日、2020年度の決算を発表した。売上高は前年から2兆円減少し7兆8600億円、営業利益は1100億円減少し1507億円の赤字だった。
- 再度利益上方修正のトヨタ その背景と森氏への苦言
トヨタ自動車は第3四半期の決算を発表し、期首に5000億円だった年間利益見通しは、第2四半期に続いて2度目の上方修正を加えて、ついに2兆円に達した。
- トヨタの決意とその結果
残念ながらリーマンショックまでの10年間、トヨタは調子に乗っていた。毎年50万台水準で増産を続け、クルマの性能を無視してまで工数を削っていった。しかし結果、リーマンショックの時は15%の生産ダウンで、4600億円の赤字を計上した。そこからカイゼンを積み重ねたトヨタは、コロナ禍にあっても四半期で黒字を保てるほどの強靭(きょうじん)化を果たした。
- ホンダの決算から見る未来
ホンダの決算は、コロナ禍にあって、最終的な営業利益率のダウンが4.2%レベルで抑えられているので、酷いことにはなっていない。ただし、二輪事業の収益を保ちつつ、四輪事業の利益率を二輪並に引き上げていく必要がある。特に、武漢第3工場の稼働など、中国での生産設備の増強は続いており、中国マーケットへの傾倒をどうするかは課題だ。
- 象が踏んでも壊れないトヨタの決算
リーマンショックを上回り、人類史上最大の大恐慌になるのではと危惧されるこの大嵐の中で、自動車メーカー各社が果たしてどう戦ったのかが注目される――と思うだろうが、実はそうでもない。そして未曾有の危機の中で、トヨタの姿は極めて強靭に見える。豊田社長は「トヨタは大丈夫という気持ちが社内にあること」がトヨタの最大の課題だというが、トヨタはこの危機の最中で、まだ未来とビジョンを語り続けている。
- 強いトヨタと厳しい日産
日本の自動車メーカーは調子が良いのか悪いのか、とくにここ数年中国の景気悪化が伝えられており、その影響が心配される。全体を見て、とにかくこの逆境下で強さに圧倒されるのがトヨタで、ちょっと言葉を失う厳しさに直面しているのが日産だ。スズキとマツダは日産を見るとまだ救われるが、下を見て安心していていい状況とは思えない。概要としては各社そろって、程度の差はあれど逆境である。
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