クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

再度利益上方修正のトヨタ その背景と森氏への苦言池田直渡「週刊モータージャーナル」特別編(1/6 ページ)

» 2021年02月12日 06時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 2月10日、トヨタ自動車は第3四半期の決算を発表し、期首に5000億円だった年間利益見通しは、第2四半期に続いて2度目の上方修正を加えて、ついに2兆円に達した。

第3四半期決算の会見を行ったトヨタの長田准執行役員

見通し発表の成果

 そもそも、世界を襲ったコロナ禍に対して、今期がスタートした3月の時点(発表は5月)で、見通しを発表したこと自体が異例だった。上場各社の中で見通しを発表をした会社は極めて少ないし、短期の市場動向の影響を受けやすい乗用車を生産する自動車メーカーの中ではトヨタ1社だけだ。うっかりしたことを言えば墓穴を掘りかねないタイミングで、見通しの具体的数字をわざわざ発表したその胆力がまずスゴい。

【訂正:2月12日7時10分 自働車メーカー全体ではトヨタ以外にも見通しを発表した会社がありました。国内乗用車メーカーではトヨタのみです。訂正いたします】

 弱気の数字を出せば危機説が飛び交うことになるし、強気な数字を宣言して、実態が伴わなければ、経営の見識が問われる。普通に考えれば黙っているに限る。

 そういう環境下で、5000億円の見通しを発表したのは、豊田章男社長によれば「トヨタがコロナに打ち勝って、日本経済を牽引(けんいん)する」という国を背負って立つ強い覚悟の現れであり、「ともすれば怖じ気づいて萎縮しかねないサプライチェーン全体を鼓舞する」意図であったが、その覚悟の選択が今回の数字にきちんと返ってきた。

 2020年の「販売台数前年同期比推移」を見れば一目瞭然だが、1-3月に急降下した販売台数は、4月に底を打つと、一気に反転した。そして6月に昨年対比84%を付けると、その勢いのまま9月には100%を突き抜けた。もし期首にあの宣言がなければ、反攻作戦に対する即応の準備をサプライチェーン全体が整えておくことは難しかった可能性が高い。戦う準備が整っていたからこその驚異的増産である。

2020年の全世界「販売台数前年同期比推移」(トヨタ)

 傘下の全員にエールを送る行動は、恐らくは「天の蔵に積んだつもりの徳」だったはずだが、いざ増産が可能になった時、それが具体的に数字になって表れたともいえるだろう。

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