年功賃金の考え方をそのまま当てはめると、年齢が高いほど能力も高いということになります。もし、50歳よりも60歳、60歳よりも70歳の方が能力がより高くなるのであれば、シニア層は引く手あまたなはずです。しかし実際は、シニア層への対応が会社にとって懸案事項となっているわけですから、年功賃金の考え方が現実に即していないことは既に証明されているといえます。
年齢が上がるとともに賃金も上がるという仕組みの矛盾は、仕事能力や担当役割以上に高い賃金を得ているシニア層を生み出すことになります。そのため、一定の年齢層で線を引き、早期退職制度などの人員削減策を実施する会社が現れます。
一方、若年世代は数が減少し続けています。厚生労働省が公表している人口動態調査を見ると、直近50年では1973年をピークに、出生数が年々減少の一途をたどっているのが分かります。
新卒採用市場はコロナ禍でやや落ち着いているとはいえ、就職氷河期状態に戻ることなく推移しています。これまでのような横並び採用ではなく、新卒でも能力の高さに応じて給与に差をつけたり、グループ会社の社長など思い切った役職に抜てきしたりと、採用側が新卒を含む若手人材の待遇を手厚くする方向で工夫を凝らすケースが増えています。
それに対し、70歳までの就業機会確保が悩みの種になっているシニア層はどうでしょうか。若手層と比較すると、扱われ方に雲泥の差を感じてしまいます。
年功賃金の考え方の影響で能力以上に給与が高くなりすぎたがために、会社としてはできれば外に出ていってほしいシニア層に対し、年々希少な存在となっているがために、厚遇で迎え入れたい若手層。会社側は表立っては言わないものの、本音としては節分の豆まきのごとく、「シニア層は外、若手層は内」ということなのかもしれません。
働き方改革が推進され、グローバル競争の中で生き残ろうともがく中で、会社組織は体質改善に必死です。できる限り生産性を高めようと聖域を設けず改革を進めなければなりません。ただ、本来であれば、長年会社に貢献してくれたシニア層の社員を邪険に扱うようなことはしたくないはずです。それでも、節分に鬼を追い払うかのごとくシニアに厳しい施策をとらなければならないのは、一にも二にも会社組織の体質改善のためです。
しかしながら、シニアに厳しい施策をとったとしても、一時的に組織の年齢構成が変わるだけで、会社組織の体質そのものを改善するには至りません。根本的な誤りが、少なくとも2点あります。
一つ目は、シニアに厳しい施策そのものが、年齢で人材の能力を判定する考え方の派生であり、年功賃金の誤りを正そうとして同じ過ちを繰り返している点です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング