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「シニア=無能」なのか? 多くの企業が導入する早期退職・シニア活用施策に潜む違和感の正体シニア層は外、若手層は内(4/4 ページ)

» 2021年06月09日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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(2)シニアは若手の未来を映す鏡

 もう一つの、シニアに厳しい施策の根本的な誤り。それは、若年層にとってシニア層は未来の自分自身の姿だということです。自分が若手層の年代の場合、シニア層だけが優遇されていると感じれば不公平感を抱いてしまいます。一方で、シニア層がないがしろにされ、活躍できていない職場であれば、将来若手層がシニア層になったとき、同じようにないがしろにされ、活躍の場が与えられなくなることを暗に示されているということにもなります。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

 シニア層から活躍の場を奪うという考え方は、結局は巡り巡って若手層の未来から活躍の場を奪うことになるのです。冒頭で紹介した調査結果にもあったように、シニア層への対応は少なからず若手層にも影響を及ぼします。「シニア層は外、若手層は内」という施策は、典型的な自己矛盾に陥っているということです。

 だからといって、実力主義の考え方だけでドライに給与が決まってしまう仕組みでは、日々安心して暮らしていくための生活費が不安定になってしまう可能性もあります。子どもの養育費や介護費用など、ライフステージや家庭環境によって必要となる収入が変わってくることへの配慮は必要です。しかしながら、必要となる生活費の在り方においても年齢だけで線引きしてしまう考え方はやはり乱暴です。

 子育てで最もお金がかかるのは高校以上の教育費です。しかし、そのタイミングを迎える親の年齢としてはさまざまなケースが考えられます。子どもが大学進学するときに、親が50代の場合もあれば、30代の場合もあり得ます。家族の介護もいつ発生するか分かりません。18歳未満の子どもが介護するヤングケアラー問題も近年クローズアップされています。

 年齢が上がるにつれて生活費も増えるという考え方は、一つの傾向として当てはまるかもしれませんが、個々の事情に応じたケアの在り方にも目を向ける必要があります。これまで年功賃金が果たしてきた役割の一つである生活費のケアについて、個別最適の観点から、年齢にとらわれずにカバーする仕組みを検討する必要があるのではないでしょうか。

 若いころは経験が足りず未熟、年配になると経験は増すものの総合的な能力は衰える。そんな固定観念が、必ずしも個人一人一人の状況に当てはまるとは限りません。

 プロ囲碁棋士として活躍する仲邑菫さんは現在12歳。アニメ、ドラゴンボールの主人公孫悟空役で有名な声優、野沢雅子さんは御年84歳で今もトップランナー。和食の鉄人として名をはせ、今はYouTuberでもある道場六三郎さんは90歳。年齢に対する固定観念を超越して活躍している人が、既にたくさん存在しています。

 年齢のイメージに縛られた旧来のシステムにいつまでもとらわれ続けるのではなく、個々の実力に応じて評価し、実情に照らし合わせてケアするシステムへと再構築するべき時期に来ているのだと思います。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ3万5000人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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