熱いプレゼンに涙──社内起業家をクラファンで創出、ロート製薬に見た“社員の起爆力”背景に創業122年の教え(1/3 ページ)

» 2021年06月25日 08時00分 公開
[西田めぐみITmedia]

 「副業元年」と言われた2018年から約3年。“人生100年時代”に備えて貯蓄をしたい、スキルを伸ばしたいという社員の声に応えるように、兼業・副業制度を導入している企業が増えてきた。「マルチジョブ」は、もはや現代ビジネスのスタンダードになりつつある。

 そんな中で、副業の枠を超え“社内で起業家になってもらう”ためのマルチジョブ制度「明日ニハ」を取り入れているのが、ロート製薬(大阪市)だ。簡単に言うと社内ベンチャー制度のようなものだが、ユニークな点が2つある。

 1つは、会長や役員だけではなく全社員が審査員であること。もう1つは、賛同した社員から社内通貨による出資を得られなければプロジェクトが成立しない、というクラウドファンディング形式であること。他社とは一線を画する同社に、制度の狙いやカルチャーを聞いた。

photo ロート製薬は、胃腸薬から始まり、「ロート目薬」で業界に革命を起こすと、1988年にメンソレータム社(米国)を買収。その後はスキンケア研究に大きく舵を切り、00年には同社を代表する「肌ラボ」「Obagi(オバジ)」といった大ヒット製品を世に送り出してきた

そこに熱意はあるか? 全社員が審査する理由

 社内起業家支援プロジェクト、明日ニハは、経営企画部でアスニハPJリーダーを務める市橋健さん(当時アグリ・ファーム事業部に所属)たち複数人の有志が企画し、20年4月にスタートを切った。目的は、「社会課題を解決したい」という社員の想いを具現化し、実際に「事業化に挑戦する機会を与える」こと。第一期では、合計3つの新会社が誕生。現在も各代表社員が運営している。

 一言で言うと社内ベンチャー制度に当たるが、明日ニハがユニークな点は事業が立ち上がるまでのプロセスにある。

 明日ニハに参加したい社員は、挑戦者(明日ニスト)と呼ばれる。まずはビジネスプランを作成し(1)「エントリー」。そこから(2)「プレシード」(3)「シード」を通して熱意や事業の実用性、収益性、計画の詳細に対する明日ニハ事務局の審査を受け、(4)「ピッチ」で全社員に向けプレゼンを行う。ここで賛同を得られた明日ニストは、(5)「アーリー」へと進んで会社設立となり、(6)「ファースト」で事業の継続判断、(7)「セカンド」で黒字化を目指し運営をスタートする。なかなか長い道のりだ。

 注目したいのは(4)ピッチのプレゼンテーション。ここで全社員に向け熱意を伝えられなければ、(5)アーリーへは進めない。事務局や、会長、社長が事業計画書を見て承認のハンコを押すのは簡単だ。しかし、明日ニハは全社員にジャッジしてもらうことに意味があるという。

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