熱いプレゼンに涙──社内起業家をクラファンで創出、ロート製薬に見た“社員の起爆力”背景に創業122年の教え(2/3 ページ)

» 2021年06月25日 08時00分 公開
[西田めぐみITmedia]

あふれ出るパッションに会場が涙

 「ソロバンをはじくのが苦手な明日ニストでも、とてつもなく強い思いを涙ながらにピッチで伝えて、会場全体を巻き込んでしまうこともありました。それを見てもらい泣きする社員が出てしまうほどの、熱いプレゼンです。それぐらいのパッションを持ってこられると、人の心は動きます。そうやって立ち上がった事業には、トップダウンで関わるだけの仕事にはない魅力と価値があるはずです」(市橋さん)

ALT 明日ニハ企画者であり、経営企画部のアスニハPJリーダー、市橋健さん。明日ニハはもともとプロジェクトベースで運営されていたが、21年6月に正式に部署として新設された。取材はオンラインで実施

 計算上、黒字が見える事業計画書であっても、それはあくまで青写真。明日ニハで最後の一押しとなるのは、“想い”にかかっている。もちろん、絵に描いた餅のような事業計画書ではピッチには進めない。実現可能か、マネタイズできるのかといった部分は基本中の基本であり、市橋さんは「それを描けるのは当たり前」とズバリ言い切る。

 しかし、未熟な計画書であっても熱意を無視することはない。そこに改善の余地があるかないかを見極め、伴走するために市橋さんをはじめとする事務局メンバーがいて、(2)「プレシード」(3)「シード」という場が設けられている。

 例えば毎日パソコンを操っていて、経営に接する機会が多いようなキレキレの社員なら、事業計画書もさらりと書けるかもしれない。しかし、「毎日工場で働いてくれている社員に、いきなり『事業計画書を出せ』なんて、難しいですよね。だからといって、パッションを持っていないなんて、誰にも言えません。だからこそ明日ニハがあって、僕らがいます」(市橋さん)。

photo 明日ニハに出せる事業計画書の内容は、ロート製薬が30年に向けありたい姿を示す経営ビジョン「Connect for Well-being」にマッチしているかどうかが主な条件。Well-beingとは、人々が心身ともに健康であることはもちろん、社会的にも健康な状態を保ちながら、毎日幸せを感じながら生活を送れる状態のことだという

活動資金を捻出するのは社内通貨

 ピッチでプレゼンを聞いた社員は、賛同できると感じた事業計画に社内クラウドファンディング経由で投資を行う(何割以上賛同、何円相当以上集まったら成立――といったルールは非公開)。ここで活動資金を捻出できるか決まるわけだが、このとき使われるのは社内通貨である健康コイン「ARUCO」(アルコ)だ。

 ARUCOは、全社員が持つ万歩計などで日々の歩数や早歩き時間を計測した結果、加えてスポーツ実施や非喫煙など健康的な生活習慣の実施状況に応じて加算される。貯まったコインは同社が運営するカフェレストランでの支払いや、社内セミナーや自己研鑽(けんさん)につながる社内研修への参加などに利用できる。

photo 全社員が持つという、万歩計。歩数などをもとにARUCOが貯まっていく

 本来であれば自分のために使える社内通貨を、いかに「応援ポイント」として集めることができるか。そう考えると、明日ニハおいては、計画性の高い書類だけではなく「高い熱量を持って社員の心を動かすことがキモになる」という、市橋さんの話にもうなずける。

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