2年で3万台が売れた! スマホ操作の聴覚サポートイヤフォンが好調なワケ3万円で高機能(4/6 ページ)

» 2021年06月30日 12時58分 公開
[小林香織ITmedia]

韓国で創業したが、日本に本社を移転した理由

 叔父のために“聞こえ”の課題を何とかしたいと開発にのめり込んだものの、カタチになるまでには数年の時間を要した。なんとか方向性が見えた16年7月、韓国でオリーブ ユニオンを創業。同年11月に、米クラウドファンディングIndiegogoでプロジェクトを立ち上げると、約1億円の資金が集まったというから驚きだ。

 「プロトタイプ完成までは茨(いばら)の道で、しばらく工場に泊まり込みで作業を続けたことも。ブルートゥースでスマートフォンとつなぎアプリ上で音調整をするのは、まったく新しい試みで、イチからソフトウェアを開発する必要がありました。日々壁にぶちあたり暗闇を歩くような日々だったからこそ、クラウドファンディングの結果には本当に救われた気持ちでした」

高齢者も使えるようアプリのUIは分かりやすさを重視(写真提供:オリーブ ユニオン)

 その後、17年に米国と韓国でFDA認定(アメリカ食品医薬品局)を取得。19年に日本に本社を移転し、同年11月に「オリーブ スマート イヤー」を日本と韓国で発売した。当初、米国と韓国で事業展開していた同社が、急に日本市場に方向転換したのはなぜだったのか。

 「2018年に、電子機器のエキシビションとして有名なラスベガスのCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)に出展したところ、来客の約90%が日本人だったんです。トヨタ、シャープといった大手企業の方も多く、日本市場に興味を持ちました。2019年に教育サービスを提供する株式会社LITALICOから10億円の投資を受けたことも、日本移転の後押しとなりました」

 現在の同社の売り上げは、米国と日本がそれぞれ50%を占めているという。補聴器の普及率は、米国が30%程度に対し、日本は14.4%(2018年の日本補聴器工業会の調査より)と低い傾向にある。しかし、高齢化が進む日本には約1500万人の難聴者が存在し、これは約8人に1人の割合。「高額の補聴器は手が出ないが、手頃な価格帯で“聞こえ”の課題を解決したい」人は多いはずだ。

 世界的にも難聴者は増加傾向にあり、WHOは50年までに難聴者が25億人にものぼると警告を鳴らしている。その背景には、イヤフォンの長時間装着などライフスタイルの変化がある。さらに、難聴が認知症の発症リスクを約2倍に引き上げるという研究結果も。今や、難聴は無視できない社会課題になっているのだ。

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