2017年、「ドライビングシューズをつくろー!」となったものの、モノづくりはそれほど簡単ではない。「いやいや、そんなことはないでしょ。ミズノはこれまでたくさんのシューズをつくってきているんだから、そのノウハウを生かせば、ちょちょいのちょいで一丁あがりでしょ」と想像されたかもしれない。確かに、さまざまなシューズを手掛けてきた。野球、サッカー、バレーボール、バスケット、ボクシングなど。数多くのスポーツシューズを扱っているわけだが、本格的なドライビングシューズは開発したことがない。
とはいえ、シューズはシューズ。筆者も「基本的な構造は同じなので、それほど難しくないのでは?」と推察していたが、それは大きな誤りであった。最大の壁は、シューズに加わる負荷である。例えば、ウォーキングの場合、体重分の負荷がかかる。体重70キロの人であれば、70キロほど。ランニングの場合は2〜3倍なので、140〜210キロほど。走り幅跳びの踏み切りの瞬間は、500キロほどになるそうだ。
では、ここで問題である。クルマを運転しているとき、シューズにどのくらいの負荷がかかるのか? 答えは、わずか「3キロ」である。これまで100キロ、200キロ、500キロの負荷に耐えられるようなシューズを開発してきた人たちにとって、ケタが2つも違うので開発が難航したのだ。
考えてみると、それもそのはずである。クルマを運転するときはイスに座って、上半身の重さはそれほどかかっていない。多くのスポーツは全身を動かすのに対し、クルマの運転は上下左右に数十センチ動かすだけである。ペダルを踏んだり離したり、位置を変えたり戻したり。たったそれだけだが、問題は繊細さが求められることである。
ちなみに、プロのレーサーが履くレーシングシューズの底は、ものすごく薄い。それを履いて、ちょっと歩くだけでも、足の裏が痛くなるほど。繊細さを重視すると素材は薄くなるが、それだと一般道を歩くのに適していない。二律背反の問題を解決するために、どうしたのか。
開発チームはミズノが生み出した、ある技術に目をつけたのだ。足裏の感度を高めるソール「MIZUNO COB」(ミッドソール上面に凹凸を付けることで、足裏により多くの情報を伝達する技術)である。これを採用することで、ペダルを快適に操作できるようにし、日常履きでも使えるようにした。
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