テレワーク手当は、報酬と見なされるのか? 社会保険の「定時決定」「随時改定」の実務を確認する社労士が解説(4/4 ページ)

» 2021年07月14日 07時00分 公開
[企業実務]
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  • (1)固定的賃金の変動
  • (2)3カ月間に支給された給与が2等級以上変動
  • (3)3カ月間の支払基礎日数が全て17日以上

 テレワーク制度を導入したことにより、賃金規定を見直したうえで、さまざまな手当の支給要件を変更、または新設した場合には、(1)の固定的賃金の変動にあたるものとして、随時改定の対象となり得ます。

 今年の随時改定では、以下のようなケースが多く想定されるのではないでしょうか。

【1】通勤手当の支給方法の変更

 これまで多くの企業では、1カ月の定期代を給与とともに支給、もしくは6カ月の定期代を6分割して毎月支給、または6カ月ごとに定期代を支給していました。

 それが、テレワークの導入により、毎日通勤する必要性がなくなったため、これまで支給してきた通勤手当を見直し、通勤した日ごとの実費精算に変更した企業も多いようです。

 その場合は、固定的賃金の変動にあたりますので、社会保険の標準報酬月額が変更となる可能性があります。

 計算方法としては、支給方法の変更が発生した月から3カ月間の支給額を確認し、従前の標準報酬月額の等級と比較して、2等級以上の差が生じた場合には、随時改定または変更の時期によっては月額変更の対象となり、届け出をしなければなりません。

 万が一、テレワークを導入してからすでに3カ月以上経過しており、月額変更に該当していたにもかかわらず、提出ができていなかった場合には、後からでも受け付けてもらえますので、月額変更届を作成・提出しましょう。

【2】在宅勤務手当の新設(通信費や光熱費、レンタルオフィス代)

 在宅勤務手当を新たに創設して毎月支給する場合も、固定的賃金の変動にあたります。これは、名称や費用の内容にかかわらず、実態として、実費を精算するのではなく、毎月一定の金額を給与とともに支払うケースについては全て基本的賃金の変動と見なされ、2等級以上の差が生じる場合、随時改定の対象となります。

 また、給与額については、前述した実費精算分は反映しません。基本給や手当のみの合計額で計算します。

 なお、次の場合は、2等級以上の変動が生じても、随時改定の対象とはなりませんので、注意してください。

・(1)固定的賃金は上がったが、残業手当等の非固定的賃金が減ったため、変動後の引き続いた3カ月分の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より下がり、2等級以上の差が生じた場合

 例えば、在宅勤務手当を新設したことにより、固定的賃金は上がったにもかかわらず、残業代等の支払いが大幅に少なくなったため、結果として2等級以上下がってしまった場合には、2等級下がりの随時改定ではなく、定時決定で対応することになります。

・(2)固定的賃金は下がったが、非固定的賃金が増加したため、変動後の引き続いた3カ月分の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より上がり、2等級以上の差が生じた場合

 例えば、通勤手当などが月額から出勤日数による日割りに変更になり、給与は下がったが、残業が大幅に増えて、結果として2等級以上上がってしまった場合も、随時改定ではなく、定時決定を行います(図表4)。

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新型コロナウイルスによる特例改定について

 例外的な措置として、2021年4月から7月までの期間に、新型コロナウイルス感染症の影響で休業を余儀なくされ、休業手当を支給したことにより著しく報酬が下がった場合には、通常の随時改定の取り扱いとは異なり、1カ月の報酬が2等級以上下がれば、翌月から標準報酬を改定することが可能です。

 この措置は2021年9月末日までに届け出る必要がありますので、該当する場合には忘れずに届け出てください。

著者紹介:石関 裕子(いしぜき・ひろこ)

ブランカ社会保険労務士法人/特定社会保険労務士

全日本空輸客室乗務員、法律事務所、コンサルティング会社等を経て開業。経営者が経営に専念できるようリスクマネジメントの観点から企業の課題解決に勤しむ。各種研修・セミナーも好評。

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