このように銀行APIが普及してくると、銀行がユーザーの目に触れることも減ってくる。銀行に行って現金を引き出し、銀行に行って振り込み用紙を書く……。お金のやりとりで常に存在した銀行との接点は、ネット時代になってもATMの利用やネットバンキングという形で、ユーザーは意識的に「銀行を使う」ことが必要だった。
ところがAPIを利用すると、ユーザーが銀行を意識するのはAPIの利用権限を最初に設定するときくらいだ。ユーザーがネットを使うときに、インターネットプロバイダを意識しないように、銀行はユーザーの意識から遠いところに行ってしまう。
いみじくも、GMOあおぞらの矢上聡洋CTOは、銀行は黒子になっていくと話す。「1994年から予言されていたことが、まさに組み込み型金融で実現される。その世界では、銀行は裏側でうまく機能することが望まれている」
1994年の予言とは、ビル・ゲイツ氏が「銀行機能は必要だが、今ある銀行は必要なくなる」と語ったことだ。送金などの裏側の仕組みを担うものとして銀行機能は必要だが、現在のような形での銀行はなくなる。API、そして組込型金融の発展によって、まさにこの予言は現実のものになろうとしている。
ではそのとき、銀行はどうなるのか。1990年代の携帯電話業界は、このままいくと携帯電話事業者は”土管”になってしまう、という恐怖から、iモードを代表例とするコンテンツプラットフォームビジネスの強化に動いた。銀行は土管になってしまうのか?
「土管でいい。銀行の未来は、融資がなくなって、為替もなくなって、預金も金利が付けられるわけではないのが現状。ただし少額決済は技術でしか実現できない。インターネットがたどってきたのと同じような道だ」と矢上氏は話す。そのときに、APIは土管をつないでいくための技術だ。そのためにGMOあおぞらはAPIに注力するのだという。
「(GMOあおぞらは)銀行のネット化ではなく、ネット企業による銀行サービスだ」と、山根武社長は戦略発表会で語った。ビジネスとしても、融資を根幹においた従来の銀行モデルではなく、インターネットらしい、小さいお金を動かしていくビジネスモデルを指向する。
銀行がお金を動かすとき、送金時も受取時も為替手数料が発生する。APIの活用によって多頻度少額でお金が動くと、ひとつひとつはわずかでも、この収益が積み上がる。このような為替手数料サービスで、将来的には売り上げの半分を作ると目論む。
7月13日には、グーグルが決済サービススタートアップのpringを買収することが明らかになった。pringが持つ資金移動業の登録では、預金、為替、融資という銀行の3大業務のうち、為替(送金)が行える。IT超大手の参入は、決済事業者にとってだけでなく、銀行にとっても対岸の火事ではない。
組込型金融の発展と、ITの進展は、銀行の姿を大きく変えるだろう。しかもそのタイミングは遠い先ではないのかもしれない。
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