#SHIFT

バブル期の大量採用世代が定年に ダイキンが急ぐ「再雇用制度」大改定の中身賃金体系も変更(1/3 ページ)

» 2021年08月24日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

 空調機器メーカーのダイキン工業が、今年4月の高年齢者雇用安定法の改正に合わせ、再雇用期間を延長した。最大のポイントは、70歳までの期間延長と再雇用者の処遇の見直しだ。処遇については、退職金への配分を減らし、賃金と賞与に振り分けることで、月々の生活に直結する収入を分厚くした。

 また、従来は原則一律だった賞与部分に4段階の評価軸を設定し、成果に報いる処遇制度を制定するなど、今後増加が見込まれるベテラン層の能力を、最大限引き出す施策に打って出た格好だ。これまで導入してきた、再雇用期間の終了後も会社に貢献し続ける「シニアスキルスペシャリスト契約社員」制度についても継続する。

photo

 人事本部ダイバーシティ推進グループの池田久美子氏(担当部長)と今西亜裕美氏(担当課長)に、制度改定の背景を聞いた。

バブル期の大量採用世代が定年を迎える

 次の図は、ダイキン工業が予測する2030年の年齢別人員構成だ。56歳以上のシニア社員が全体の25%を占めることが予想されている。ちょうどバブル期の雇用増の世代が、この世代に当たる。今西氏は「今後の年齢構成を考えると、ベテラン層の能力をいかに生かすか。制度の変革は喫緊の課題だった」と説明する。

photo 2030年には、バブル期の大量採用世代がベテラン層に突入して全社員の25%を占めると予測している

 再雇用期間を70歳まで延長した同社だが、定年については、従来通り60歳のままだ。大企業を中心に定年そのものを65歳まで延長する動きが活発化している中、どのような理由で据え置いたのだろうか。今西氏は「定年延長については、これまで継続的に議論してきた。しかし、コロナ禍を受け、さまざまなリスク要因を考慮した結果、いったん慎重を期すという経営判断により今回は見送った」という。

photo 人事本部ダイバーシティ推進グループの今西亜裕美氏(担当課長)

 だが、社員の高齢化は否が応でも進行する。「ベテラン層が貢献できる制度を設ける必要性は十分理解している。そこで、4月の法改正にあわせて、再雇用延長を先行して実施することにした」(今西氏)。3月までの再雇用制度は65歳までだったが、もともと同社の再雇用率は高く、19年度の実績で91%、人数は約500人に達していた。

 そして、再雇用期間の終了後も働けるように「シニアスキルスペシャリスト契約社員」制度を用意し、65〜69歳が約160人、70歳以上が約40人(過去5年間で再雇用率約30%)がこの制度下で働いていた。

 ただし、シニアスキルスペシャリスト契約社員は、再雇用制度との間に大きな相違点がある。再雇用については、本人が希望すれば働き続けることができる。その一方で、シニアスキルスペシャリスト契約社員は、会社側主導で雇用継続の可否が決まる仕組みだ。

 今西氏によると「経験に裏打ちされた専門性、ノウハウ・スキル、知識、人脈を持っているなど、余人をもって代えがたい業務で、それを遂行し得る人材が対象。これまで、そして今後も貢献してほしいと、会社が判断し、本人もそれを希望すれば、シニアスキルスペシャリスト契約社員として働き続けられる制度」だそうだ。逆の見方をすれば、パフォーマンスを発揮できないと会社側に判断されれば、本人が希望してもそれ以上働くことは難しい。

photo 従来制度と比較すると、再雇用期間終了ポイントが5歳分後ろ倒しになるイメージ。70歳以上でもシニアスキルスペシャリスト契約社員として働き続ける道も開けている

 21年4月の制度改定で、再雇用期間が70歳まで延長されたのを契機に、従来の65〜69歳のシニアスキルスペシャリスト契約社員は、そのまま再雇用者として働いている。シニアスキルスペシャリスト契約社員は70歳以降、従来の制度が継続的に適用される仕組みだ。

 ちなみに、シニアスキルスペシャリスト契約社員と聞くと、この制度で契約できるのは、何らかのスペシャリストである必要がありそうだ。しかし「名称がそうなっているだけで、職種は多岐にわたる。ジェネラリスト的な人もたくさんいる」(今西氏)という。

ベテランの暗黙知をどう生かすのか

 このようにベテラン層の能力を最大限活用するため、制度改革を進めるダイキン工業だが、彼らが会社にどのような形で貢献しているのか。次のような一例を教えてくれた。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.