イオンとヤオコー、スーパー業界の優等生がそれぞれ仕掛ける新業態の明暗小売・流通アナリストの視点(5/5 ページ)

» 2021年08月26日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]
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 ヤオコーによるフーコットを首都圏郊外マーケットの細分化による開拓と位置付けるなら、イオングループのパレッテも、首都圏16号線内側エリアの価格志向の新たな顧客開拓と考えられる。首都圏内側のマーケットには、オーケーやロピアといった大型店タイプの強力なDSが既に存在していて、一見レッドオーシャンのように感じられるが、必ずしもそうではない、とイオンは分析しているであろう。

 首都圏中心部においては、クルマで買い物をする人の比率は圧倒的に低く、若年層、単身世帯層はクルマ離れ、そして急増する高齢者層はこれから免許を返上することになる。大都市の「買い物機動力」はこれからどんどん低下するため、遠くにある大型店に行くよりも、近くで必要最低限のものを安く買えることを望む人が急速に増えるのである。そうしたすきまのマーケットを狙って、イオンは新業態を投入して布石を打ち始めたのであろう。

 パレッテの売り場の広さは300〜400坪くらいで、首都圏郊外で見ても、そう大きなサイズではない。周辺には少しづつライフ、サミットなどの大型食品スーパーや、オーケー、ロピアといった大型DSが増えつつあり、このサイズの既存スーパーやドラッグストアが閉店するケースも散見される。

 パレッテはこうした既存店舗の居抜きを想定しているようであり、大型店進出のすきまを埋めることで、新たなマーケットを開拓する可能性はありそうだ。今はあまりお客の少ない店という風に見えるが、もともとマーケットのすきまを埋めるために、採算が合うオペレーションコストを設計しようとしているのかもしれない。

 イオングループは、首都圏でコンビニサイズの地味なミニスーパー「まいばすけっと」を一から作り上げ、10数年が過ぎた今、その店舗数は900店以上、売り上げは約2000億円のチェーンに育てた実績がある。地方から全国展開したイオンは、いまだに首都圏に関しては存在感が大きいとはいえないが、それだけにこの市場に対する執念は大きいと思われる。一見、あまり客の入っていない店だと安心していると、10年後にはパレッテに周囲を囲まれているかもしれない。

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著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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