イオンとヤオコー、スーパー業界の優等生がそれぞれ仕掛ける新業態の明暗小売・流通アナリストの視点(4/5 ページ)

» 2021年08月26日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

 先述した通り着実に増収増益を継続しているヤオコーだが、その展開エリアは関東圏から出ることがなく、特に埼玉県の中心である国道16号線沿線から外側に出店を進めている。今後の人口動向を考えれば、16号線内側の人口密集地にも進出したいというのは、やまやまなのであろうが、これがそう簡単には進んでいないようだ。

 18年3月期以降のヤオコーの新店出店実績(22年3月期は予定)を見ると分かるが、近年の出店は本拠地である埼玉県が圧倒的に多く、東京23区には1店舗も出せていない。18年3月期には、ようやく23区寄りの調布市に「八百幸成城店」という、彼らからすれば小型店舗を出したが、いまだこうした都市型タイプの2号店とは生まれていない。超優良企業のヤオコーといえども、郊外ロードサイド型を都心レールサイド型にアレンジするのは、簡単ではないということなのだろう。

ヤオコーIR資料を基に筆者が作成

 こうしたことを踏まえると、ヤオコーにとってフーコットというDS新業態のミッションが分かってくる。

 ヤオコーの売り場作りは、消費者調査などでも高い評価を得ていることが有名だが、その支持層は中高年層に厚く、若年層には若干弱いといわれている。高品質な商品を適正価格で提供するという姿勢が買われている反面、価格重視の傾向がある若年層にとっては、価格面で不満があるのだろう。

 現在は人口構成上、中高年層の支持を得ていることは大きな強みである。ただし、今後世代交代が進んでいけば、その強みが薄れていく懸念があることを、ヤオコーは十分理解し、その布石を打とうとしているようだ。価格を重視する若年層を取り込むためのDS業態を投入し、既存の首都圏郊外エリアの客層を拡大することで成長を維持し、その間にじっくりと都心部攻略のための店舗フォーマットを完成させよう、という作戦なのであろう。

 17年に子会社化したエイヴイは、三浦半島方面で評判の人気スーパーであり、無借金の優良企業だったところを、ヤオコーが三顧の礼をもって迎え入れたといわれている。一見全く困っていないように見える地場有力企業とヤオコーとの統合は当時、周囲から大きなサプライズとされていたが、こうした連携構想を示したからこそ成立したのだとあらためて感じる。

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