食用油の主たる原料は、大豆、菜種、パームだが、サトウキビ、小麦、トウモロコシと共通する永続的な価格高騰の要素がある。これらは、石油から精製した軽油やガソリンの代替品として、バイオ燃料であるバイオディーゼルやバイオエタノールの原料にもなるのだ。
バイオ燃料を燃焼すると、温室効果ガスとされる二酸化炭素を排出する。しかし、植物は光合成を行って二酸化炭素を吸収するので、石油のような化石燃料とは違って地球温暖化に寄与しないとされる。また、化石燃料は枯渇の心配があるが、植物は非枯渇の資源だと考えられている。
しかし、これらの作物は先物取引の対象になっていることから分かるように、天候に左右され、災害の影響をどうしても受けてしまう。一方、気象条件が例年より良ければ、採れ過ぎてしまう時もある。石油のように一度掘り当てれば、数十年は安定的に供給できる性質を持ち合わせていない。
つまり、いくらエコだからといっても、人が食べていくために必要な食品を石油に代替させるという発想自体に「持続可能なのか?」という問題がある。
実際、石油の価格が高騰すると、バイオ燃料で代替させようと、これらの価格も上がる傾向が出ている。欧米を中心にコロナ禍からの回復によって、経済が活発化し、輸送が伸びることで原油の価格も上がっている。非接触を求めて、人々が移動に電車より車を使う傾向が高まったこともあるだろう。レギュラーガソリンの価格は、昨年5月に1リットル105円くらいまで下がったが、今は155円あたりまで上がっている。
皮肉なことに、地球温暖化を止める、環境にやさしい社会に世界がシフトするほど、食料品の価格が継続して高騰するリスクがある。
また、直近は新型コロナの影響で、世界的に生産や輸送にかかわる人員が確保できずに、出荷が滞っている一面もある。
メーカーだけでなく、スーパーや外食も企業努力で極力、値上げしないで頑張ろうとする。しかし、利益が圧迫されるので、最終的に価格を上げるか、サイズを小さくして販売するしかなくなってくる。
それにしても、人間の新型コロナだけでなく、豚のアフリカ豚熱、ニワトリの鳥インフルエンザと、ウイルス感染症の影響は甚大だ。異常気象の影響も日本のみならず、世界に及んで食品の価格を押し上げている。食糧問題の根の深さを痛感する。
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
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