クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

シフトレバーの「N」はなぜある? エンジン車の憂うつと変速機のミライ高根英幸 「クルマのミライ」(3/4 ページ)

» 2021年08月30日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

Nレンジが役立っていることを感じない訳

 Nレンジには、実はそれよりも重要な役割がある。それは現在のATのシフトパターンで考えた時、RレンジとDレンジの間にNレンジが設定されていることだ。つまり、RとDを隣り合わせにすることを避けることで、シフトミスを防ぐことができるのである。

 Nレンジの位置にPレンジを設定すれば同じことでは、と思われる方もいるかもしれないが、Pレンジは機械的なロック機構が働くので、前後進を繰り返して方向転換するスイッチバック操作の際に微低速で動いている状態でPレンジにシフトしてしまうと、ロック機構が働いてしまい、ロック機構そのものが壊れてしまう可能性も高まる。

 ドライバーから見て一番奥がPレンジ、その1つ前が後退用のRレンジ、そして前進用のDレンジとの間にNレンジを配置するのは、実に合理的なのである。

 例えば走行中にエンジンブレーキを効かせようとDよりも低速側のギアにシフトして走行した後で、シフトアップしてDレンジにシフトする際、勢い余ってもう1つ先までセレクターレバーをスライドさせてしまっても、Nレンジであれば実害は少ない(駆動力が無くなってしまうので車体が不安定になるくらいだ)。

 車速が高ければRレンジやPレンジまでシフトしてしまっても、ECUが判断して実際には切り替わらないように制御するが、車速センサーがエラーを出したり、寿命になったりするケースもあり得る。あらゆるケースを想定して、自動車メーカーは可能な限り安全なクルマを作り上げているのである。

 ちなみにスイッチバックの際には、キッチリとクルマを停止させてシフトするのが従来の常識であったが、便利過ぎるクルマをユーザーに提供し続けた結果、スーパーやショッピングモールでの駐車の際には、微低速で動きながら前後進を切り返すドライバーが非常に多い。

 そうした操作を行っても、ATが壊れないようにさまざまな対策を施し、耐久テストも行って品質を確保しているのが、日本のクルマたちなのである。輸入車でも同様の品質を確保していると思われているが、実はそれらも変速機は日本のメーカーの製品であることも多いのだ。

ZFが開発したハイブリッド変速機。従来のトルクコンバーターの位置にモーターと多板クラッチが組み込まれている。各ギアを制御するのも遊星ギア機構に組み付けられた多板クラッチだ

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