「MANGA Plus」は日本の切り札になるのか?   「少年ジャンプ+」編集部の挑戦ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(5/5 ページ)

» 2021年09月02日 08時00分 公開
[数土直志ITmedia]
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「MANGA Plus」が変える海外漫画市場

 MANGA Plusの役割は、海賊版を抑えるだけでない。『週刊少年ジャンプ』が持つ雑誌の役割をデジタルに移し替え、グローバルに展開するとの発想がある。漫画を育てる機能だ。

 効果は現れている。北米の漫画ベストセラーランキングで最近、興味深い事象が起きている。ここ1年で『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』といった作品がヒットチャートの上位につけているのだ。

 海外の漫画販売におけるアニメの影響は絶大で、漫画の人気は作品のアニメ化に左右されると指摘されてきた。『NARUTO-ナルト-』や『進撃の巨人』がアニメ開始とともに、急激に売り上げを伸ばした例もある。しかし『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』は、現時点でアニメはリリースされていない。いずれもMANGA Plusで、同時配信されている漫画である。

 日本漫画の海外市場が、一部でアニメと離れて自立するきっかけとなっている。それは海外漫画市場のさらなる拡大につながるかもしれない。

 日本漫画の海外配信プラットフォーム構築は、これまでいくつものIT企業などが挑戦し、成功できなかった。MANGA Plusはそこに可能性を打ち立てる。

 MANGA Plusシステムが、海外のアプリ市場を席巻するタテヨミマンガに対抗できるのでないかとの期待がある。

 デジタル化の流れは日本漫画だけに恩恵があるわけでない。むしろ作品の創出と流通、ファンコミュニケーションのあり方が変化したことで、これまでにない新たなやりかたで成長する企業が現れている。それがタテヨミマンガを武器に躍進する韓国企業のコミックアプリだ。

 見開きの日本漫画とタテヨミマンガは作品の内容もシステムも本質的に異なるが、デジタル上でマンガを楽しむ行為では、時間を取り合っているのは確かだ。手軽にクオリティーの高い作品を提供できるMANGA Plusは、こうした他のエンタメ企業とも戦えるはずだ。

 さらにMANGA Plusは、背後に控える巨大な日本漫画カルチャーの海外展開の突破口になるのではないか。そのシステムから新たな巨大市場が生まれる可能性は十分ある。海外における日本漫画の展開、そしてMANGA Plusから目が離せない。

数土直志(すど・ただし)

ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に映像ビジネスに関する報道・研究を手掛ける。証券会社を経て2004 年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立。09年にはアニメビジネス情報の「アニメ! アニメ! ビズ」を立ち上げ編集長を務める。16年に「アニメ! アニメ!」を離れて独立。主な著書に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社新書)。


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