クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

いまさら聞けないリチウムイオン電池とは? EVの行く手に待ち受ける試練(後編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/7 ページ)

» 2021年09月06日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

発火の原因

 ということで2021年現在の動力用バッテリーのトレンドは、脱コバルトと、発火対策が大きい。前記のように、三元系に比べて、リン酸鉄系は燃えにくさの点では有利なのだが、一方で、それをして絶対安心と言い切るかのような記事が多く、それはそれで事実と違う。バッテリー出火の原因は正極だけではないのだ。

 バッテリーが燃える原因は大きく分けて3つある。過充電、内部でのショート、外部でのショートである。詳細を書き出すと本当にキリがなくなるので、代表的なものだけ書き出してみる。

 過充電は分かりやすい。設計限界を超えて電圧をかけ続ければ、過熱する。温度異常が起きれば化学変化は暴走し、金属が溶解したり、モジュール内部でガスが発生してケースが膨張したりして、やがてケースを破壊して出火が起きる。

 という具合に原理は非常に簡単なのだが、リアルワールドでの話はいろいろとややこしい。そもそもなぜ設計限界を超えて電圧がかかるかといえば、安全装置が働かないという制御系のトラブルが起きるからだ。現在充電器とEVの相性問題があちこちで起きており、充電終了予定時間以前にシャットダウンしてしまったり、そもそも充電が開始できない現象が起きている。これらは、過充電への対策として、バッテリー内部の状態を充電器と通信しながら制御するシステムが安全のため充電を切るようになっている。

 動力用バッテリーには、セルやモジュール単位で、安全回路が組み込まれており、バッテリー単体でも安全機能が働いてシャットダウンする仕組みになっている。つまり外部充電器のコントロールを信用しない仕組みになっているということだ。このバッテリー側に組み込まれた安全装置が最終防衛ラインなので、バッテリーメーカーの技術に負う部分はやはり大きい。

 しかし、設計時の全ての想定が問題なく機能していれば、充電開始不全やシャットダウンは起こらないはずである。何か不具合があるから動作不良を起こしていることになる。この理由はさまざまだが、バッテリー側の安全制御プログラムと、充電器側の安全制御プログラムの相性問題は現実にかなり起きている。両者のファームウェアのバージョンがどんどん更新されていく中で、全ての順列組み合わせでパーフェクトな結果を出すことはなかなか難しい。

 現在までのところ、安全装置が過剰に反応する方向でエラーが出ているので、実用上の不便はさておき、安全面では救われるのだが、バッテリー側に組み込まれた安全装置の設計いかんによっては、過充電が引き起こされないとも限らない。これは充電器とEVがそれぞれ別の企業の製品であるから起きることだ。相性問題による発火が起きたら、極めて大きな問題に発展することはほぼ間違いないだけに、各メーカーには是非とも安全を重視した丁寧なもの作りをお願いしたい。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.