クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

いまさら聞けないリチウムイオン電池とは? EVの行く手に待ち受ける試練(後編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(7/7 ページ)

» 2021年09月06日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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リサイクルの行方

 さて、だいぶ長くなってしまったが、最後にどうしてもリサイクルの話だけは触れておきたい。リチウムイオンバッテリーのリサイクルについては、今世界が求めている普及率の台数を処理できる技術も設備も無い。数十倍のEVを作ろうというのだから、当然と言えば当然だ。

 もし今後もコバルトとニッケルのような希少金属が使われていくとしたら、貴重な都市鉱山として、それらの素材は回収して再利用しなくてはならない。ただし、現在の技術ではリサイクル時に異物が混入して、高純度のコバルトやニッケルとして再精製することは難しい。とすれば出口は、低純度のまま使えるようにするか、精製技術を進歩させるかしかない。その技術を開発して、かつ量産化技術を確立し、十分な設備を建設して、採算化しなくてはならないとなると道はかなり遠く、向こう15年の間に、そこに到達するのはなかなか難しい。現状の試算では、大量に処理できる方法が実現すれば、コバルトとニッケルに関してはある程度採算領域へ持っていける可能性があるといわれている。

 一方で、リン酸鉄はどうにもならない。リサイクル費用と原材料価格が全く釣り合わないからだ。しかし、逆にいえば鉄は希少材料ではない。その意味では資源的にはリサイクルする必要はない。他に環境問題を引き起こす素材が含まれていないのであれば、クルマの他の部材と同程度にリサイクルし、どうにもならない部分は燃やして、酸化鉄のスラグとして埋めてしまえばいいことになる。

 とはいえ、二次電池の面倒なところは、化学エネルギーとして蓄えられたエネルギーそのものは消滅してくれないという点だ。処理前に完全に放電させておかないと、分解の際に外部ショートを起こして燃えることは十分に考えられる。リサイクルにしても廃棄処分にしても、まだまだこれから考えて、確立していかなくてはならない点が多々あるのが今見通せるバッテリーの未来である。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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