クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

いまさら聞けないリチウムイオン電池とは? EVの行く手に待ち受ける試練(後編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/7 ページ)

» 2021年09月06日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 内部でのショートは、複数の原因がある。もっとも一般的なのは異物混入、いわゆるコンタミである。サムソンのスマホGalaxyが発火したのはこのコンタミが原因といわれている。多くのセルが積層され、かつそれがコンパクトであることが求められると、極板と極板の間は可能な限り詰めたい。これをミクロン単位まで突き詰めるということは、ミクロン単位のコンタミがあったらその場で極板と極板がショートして過熱、発火することになる。極板と極板の間にはセパレータと呼ばれる薄膜が挟み込まれており、これがショートを防止するのだが、鋭利で硬い異物などであればこれを突き破ってしまう。

 最も厄介なのは析出(せきしゅつ)だ。これは主に電解液の中に溶け出した金属が、例えばコンタミの小さな粒子の回りや、電極の周囲で、何らかの理由で固体化して発生する。尿管結石みたいなものができると思ってほしい。これが電極間をショートさせる。厄介なのはこの析出は、発火するまで発見が困難である点だ。そして、低温環境で起こりやすい。現在EV王国であるノルウェーあたりで、もしこの析出由来の発火事故が頻発するようなことになれば、EVの未来そのものが危ぶまれる。

 あるいは過放電も析出の原因となる。不要になったバッテリー内蔵製品を放置したりすると、沈殿(ちんでん)や析出が発生して、ショート→発火にいたることがある。世の中にはかなりの台数の放置車両がある。数十年後、あれがEVだったら相当に危ないといえる。

 外部ショートは、物理的事故と生産不良が多くを占める。例えば、高速道路で落下物に乗り上げるなどでバッテリーケースの一部が破壊されると、電気的につながってはいけないところがつながり、発熱発火に至る可能性が高い。最近の実例として、GMのシボレー・ボルトとフォルクスワーゲンのiD.3のLG製バッテリーは製造不良によって外部ショートを起こした疑いが持たれている。具体的には、バッテリーの生産時に、陽極のタブが破損した状態であったり、電極間を絶縁するためのセパレータが折れ曲がって積層されていたりというお粗末ぶりで、これはEV全体の問題というのは少し違うだろう。LGの製造管理上の問題である。

 ただし、コストメリットをウリにしたメーカーの製品を安易に採用し、かつ生産量をどんどん増やせと圧力を掛けているという意味では、自動車メーカーも広義で、その製造不良に荷担しているともいえる。

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