しかしながらそもそものエネルギー密度不足を放置したままでは製品にならない。航続距離の短いEVを今更発売しても、三元系のリチウムイオンバッテリーに慣れた顧客は、財布を開いてくれない。そこでセルの搭載数を増やす競争が始まっている。
まずはテスラのアプローチだ。テスラはバッテリーのパッケージを変えた。従来のバッテリーはセルを束ねてモジュールとし、そのモジュールを詰めてバッテリーパックを形成し、それをシャシーに搭載するという方法を取っていたが、テスラはシャシーそのものにバッテリーパックの機能を持たせて、直接セルをシャシーに搭載できるようにすることで、多セル化を実現した。
これにより、完全にとは言わないまでも、三元系イリチウムイオンバッテリーに対するエネルギー密度の不足をある程度埋め合わせることができた。価格と安全性と航続距離のバランスをマーケットが納得してくれれば、ひとつの落としどころになり得る。
もう一社、エネルギー密度の低いバッテリーを多セル化した会社がある。前回の記事で紹介したトヨタのバイポーラ型ニッケル水素バッテリーだ。従来の一対の電極で1セルという概念を覆し、集電板の片側に正極材、裏面に負極剤を用いることで、多セルを連続構造化させることに成功した。
バッテリーパックとして見た時に電極のベースとなる金属箔(はく)の枚数をほぼ半減させることができる上、セルとセルを電気的につなぐタブと配線がいらなくなる。同じスペースにより多くのセルが搭載できるわけだ。これによって、三元系バッテリーとの差を埋めることができた。トヨタの場合EV用ではなくHV用なので、バッテリー容量が直接航続距離に与える影響は軽微だが、重量と価格と燃費低減効果のバランスが問われるのは同様である。
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