クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

いまさら聞けないリチウムイオン電池とは? EVの行く手に待ち受ける試練(後編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/7 ページ)

» 2021年09月06日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

多セル化の流れ

 しかしながらそもそものエネルギー密度不足を放置したままでは製品にならない。航続距離の短いEVを今更発売しても、三元系のリチウムイオンバッテリーに慣れた顧客は、財布を開いてくれない。そこでセルの搭載数を増やす競争が始まっている。

 まずはテスラのアプローチだ。テスラはバッテリーのパッケージを変えた。従来のバッテリーはセルを束ねてモジュールとし、そのモジュールを詰めてバッテリーパックを形成し、それをシャシーに搭載するという方法を取っていたが、テスラはシャシーそのものにバッテリーパックの機能を持たせて、直接セルをシャシーに搭載できるようにすることで、多セル化を実現した。

 これにより、完全にとは言わないまでも、三元系イリチウムイオンバッテリーに対するエネルギー密度の不足をある程度埋め合わせることができた。価格と安全性と航続距離のバランスをマーケットが納得してくれれば、ひとつの落としどころになり得る。

現在の飛行機は、翼そのものをタンクとして直接燃料を搭載している。テスラは同様に、シャシーそのものにバッテリーセルを搭載しようとしている(テスラ バッテリーデイプレゼンテーション資料より)

 もう一社、エネルギー密度の低いバッテリーを多セル化した会社がある。前回の記事で紹介したトヨタのバイポーラ型ニッケル水素バッテリーだ。従来の一対の電極で1セルという概念を覆し、集電板の片側に正極材、裏面に負極剤を用いることで、多セルを連続構造化させることに成功した。

 バッテリーパックとして見た時に電極のベースとなる金属箔(はく)の枚数をほぼ半減させることができる上、セルとセルを電気的につなぐタブと配線がいらなくなる。同じスペースにより多くのセルが搭載できるわけだ。これによって、三元系バッテリーとの差を埋めることができた。トヨタの場合EV用ではなくHV用なので、バッテリー容量が直接航続距離に与える影響は軽微だが、重量と価格と燃費低減効果のバランスが問われるのは同様である。

新型アクアが搭載したバッテリーでは、多セルを連続構造とする技術で体積当たりのセル数の増加を実現した

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