中国当局がエンタメ規制に乗り出すきっかけは、4月末から5月初めに世間を騒がせた人気オーディション番組「青春有你3」の「“推し活”乳飲料廃棄事件」だ。
動画配信大手「愛奇芸(iQIYI)」が配信する同番組は今年2月に開始。日本人を含む118人の練習生がファン投票によって段階的に淘汰されていき、最終選出された9人がアイドルグループとしてデビューできることになっていた。
ファン投票は番組アプリを通じてできるほか、番組スポンサー「蒙牛」の乳製品を購入し蓋(ふた)などに表示されたQRコードからも可能で、番組アプリでの投票回数に上限があるのに対し、乳製品購入による投票は無制限だった。
ファンは“推し”をデビューさせるために大量の乳製品を購入するわけだが、投票権を獲得して用済みになった中身を路上に廃棄する動画が4月末にSNSで拡散した。その結果、アイドルに興味のない世代や層も、ファン経済や推し活の実態を知ることになった。
5月8日には国務院の記者会見で同問題が質問され、国家インターネット情報弁公室インターネット総合ガバナンス局の張拥軍局長が「大人が自分たちの利益を優先し、青少年に一線を超えさせ、ネットの中傷、ファン同士の誹謗中傷、デマ拡散、不当消費などを引き起こしている」と「ファン経済」の行きすぎに言及した。愛奇芸はその翌日、番組配信だけでなく決戦投票そのものの取りやめを発表した。
中国メディアによると番組に出ていた練習生上位9人の投票数は計5600万を超え、蒙牛の乳製品約2億元相当(約34億円)が投じられた計算になる。
実は中国の他のオーディション番組でも蒙牛がスポンサーにつき、商品を購入させて投票権を付与する手法を取っていた。乳製品廃棄動画がSNSで拡散されなければ、その成功体験は延々繰り返されていただろう。
国家インターネット情報弁公室は6月、2カ月に渡って「無秩序なファン経済の清浄化キャンペーン」を展開すると発表した。4月末に「反食品浪費法」が成立したのに続き、6月1日には改正未成年法が施行された。自業自得ではあるが、ネット企業やエンタメ業界は最悪のタイミングで当局に目をつけられたのだ。
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