タレントの脱税や未成年の過度な消費、ファン同士の誹謗中傷などは対処されるべきだが、中国政府はエンタメ業界そのものを社会を腐らせる不健全な存在と見なしているようだ。
本記事で紹介した不祥事は全てSNSで表面化しており、相当な闇も感じさせる。オンラインゲームが未成年にとっての「精神のアヘン」だと糾弾され、1日のプレイ時間が週3時間に制限されたことを考えると、SNSやネットによって24時間“推し”を追いかけ続ける今の状況に規制の網がかかるのも不思議ではない。
渦中のクリス・ウーはK-POP出身、かつタレント発掘番組で世に出たアイドルだが、アイドルがファンとの距離を縮めることで「一緒に成長する」感を出したり、商品に投票権をつけて人気投票にファンの経済力を反映させる手法は、日本が本家ともいえる。
当局が番組やタレントに「中華の優れた伝統文化、革命文化、社会主義先進文化を発揚する」ことを求め、ジェンダーレス男子を否定するのは、エンタメ業界の乱れが日韓文化の流入と関係していると考えているからだろう。
規制発表後、中国のSNSプラットフォームは一斉にタレントランキングを取りやめ、関連アカウントの整理に動いている。動画メディアの人気コンテンツだったタレント育成番組も放映できなくなった。
しかし、今の中国のアイドルの大半はタレント発掘番組から生まれており、アイドルを目指している若者は最もメジャーなルートを失ったことになる。
21年前半に放送されたテンセント系のオーディション番組「創造営2021」ではデビューが決まった11人グループのうち3人がエイベックス所属の日本人だったように、中国市場をターゲットにする日本人タレントや芸能事務所も増えている。
中国当局による「大統制」は、同国のみならず日本のエンタメ業界にも進出戦略の見直しを迫るかもしれない。
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。
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