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社員を「子ども」扱い? 野村HD「在宅勤務中も喫煙禁止」の波紋そのマネジメントは正しいのか(4/4 ページ)

» 2021年09月15日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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 喫煙は「百害あって一利なし」といわれます。非喫煙者から見るとまさにその通りだと思います。また、喫煙が及ぼす健康への影響を考えると、禁煙どころか、永遠に止めた方がいいものだとも思います。タバコを止めたくても依存症のために止められないという社員には、サポートする必要があることは間違いありません。

 しかし、百害を承知の上で、自らの意思で喫煙を続けたいと考えている社員もたくさんいます。タバコを嗜好する者としての一利があるということです。その一利は、喫煙者にとっては百害に勝るほどの「利」なのです。タバコは嗜好品ではなく、依存性薬物だと指摘する声もありますが、法律で禁止されていない以上、その「利」を抑え込むには、健康を損なうという「害」を被る喫煙者自身が自ら制御するしかありません。

 一方、健康経営を推進する上で、社員自身の喫煙を巡る健康管理に介入したり、在宅勤務者に禁煙要請することに一利あることも事実だと思います。しかし、その「利」に対していくつの「害」が生じるのかも視野に入れておく必要があります。健康経営という方針を推進するために、社員を 子ども扱いし続けながら過度に他律的マネジメントを働かせようとしてしまうと、これまでに指摘してきたようないくつものデメリットが「害」としてもたらされることにもなり得ます。

「大人」として一任すべきではないか

 記者会見上で、医者から止められていると言いながら、勝新太郎さんはタバコをふかしました。その振る舞いへの是非は、人によって意見が分かれると思います。しかし、少なくとも喫煙の害を知った上で、「大人」として自らの意思で判断した結果であることは間違いありません。それは生き様や美学、人生哲学、価値観などあらゆる要素が統合された、勝さん一流の自己表現です。

 医者であっても、喫煙者の意思までは制御できません。喫煙がもたらす害について、会社が社員を啓発することは必要ですが、十分な情報提供を行い、その害について認識した上で何を優先し、どのように自己表現するかは、他人に負の影響を及ぼさない限りにおいて、大人として社員個人の意思に任せるべきなのではないかと思います。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ3万5000人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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