面白そうな場所ができていた 京阪電鉄「なにわ橋駅」のB1杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2021年10月01日 08時04分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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鉄道芸術祭の開催地「なにわ橋駅」

 なにわ橋駅コンコースの「アートエリアB1」では、10年から「鉄道芸術祭」が開催されている。正確には10年はプレイベント(vol.0)で、11年に第1回。以降、「鉄道にまつわる技術や、文化や歴史、移動風景を眺める旅の楽しみなど、鉄道のさまざまな特性に着目したアートプロジェクト」として毎年秋から冬にかけて開催されている。

 第1回はドイツ在住の空間芸術家・西野達氏、漫画家のしりあがり寿氏と横山裕一氏、ダンサーの伊藤キム氏とジェコ・シオンボ氏、ホーメイ歌手の山川冬樹氏などが参加。第3回は海洋堂の代表取締役・宮脇修一氏と落語家の桂南光氏、浪曲師の春野恵子氏などが登壇。

 第6回は京阪電車を貸し切ってクラブイベントを実施。第8回はゲーム『アクアノートの休日』『巨人のドシン』で知られるクリエイターで、現在は立命館大学教授の飯田和敏氏が、展示ゲーム作品『水没オシマイ都市』を制作した。

 鉄道と芸術といえば、文学、音楽、演劇、映画、近年は落語やコミックなどが連想される。しかし「鉄道芸術祭」の過去の内容を見ると、これらを踏まえた上で、ダンスやクラブカルチャー、建築、理論物理学、都市計画、ゲーム、医学など多岐に渡る。

 21年は11年目に当たるる。20年から21年にかけて開催中の第10回の2年目だ。テーマは「鉄道と経済」。ただし学問、ビジネスではなく、このテーマを芸術に取り込んでいく。主演アーチストはダンスパフォーマンス「コンタクトゴンゾ」と建築家ユニット「dot architects」がタッグを組む。映画『ギャラクティック運輸の初仕事』を制作している。昨年は企画展などを実施し、今年は上映会になるようだ。

 実は、筆者も9月16日に「アートエリアB1」に招かれて、プレ企画トークイベント「リアルとフィクションから語る駅・鉄道の新たな魅力」に参加させていただいた。鉄道をテーマとする芸術家のみなさんのヒントになりそうな話として、鉄道を扱ったゲーム『A列車で行こう』を題材に「駅とはなにか、鉄道ファンは駅のなにをおもしろいと思っているか、鉄道が無くても駅は成り立つか」というお話をさせていただいた。

 その前月、8月19日は産業能率大学教授の加藤肇氏が「収益装置としての駅の進化と今後の方向性」としてエキナカ商業施設などについて語った。7月27日には立教大学経済学部名誉教授の老川慶喜氏が「日本鉄道史のなかの渋沢栄一」として日本の鉄道と経済の歴史を紹介した。こうした刺激を受けて、アーチストがどんな映画を作るか、とても楽しみだ。

 鉄道芸術祭は鉄道ファン向けというより、鉄道の魅力を多方面から発掘する試み。良い意味でぶっ飛んでる。しかし根底にあるテーマは「駅とはなにか、どうあるべきか」であるように見受けられた。その歴史は中之島に駅ができる計画とともにはじまり、中之島線各駅への問いかけでもある。

 中之島線と「なにわ橋駅」は「現役の駅でありながら未完成」。生まれ変わる中之島にあって、都市が見失いがちな「文化・芸術」のくさびを打ち続ける。10年後になにわ筋線が開業し、中之島一帯が大阪の一等地に返り咲く。そのとき「アートエリアB1」はどうなるだろう。解散して商業テナントが入るか、都市の芸術の発信地として存続し続けるか。京阪電鉄の好感度を上げるなら後者を選ぶべきだろう。

「アートエリアB1」のイベントの一部。緊急事態宣言下ではオンラインイベントが続いていた。コロナ後を盛り上げる文化発信がはじまる(出典:京阪電車 なにわ橋駅 アートエリアB1

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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