グランピングの最大の特徴は「大自然とのつながり」だと松野氏は考える。そこにフォーカスしながら地域文化に根ざした魅力やSDGsに関連付けた取り組みなど、グランピングが実現できる範囲を拡大していくことで、次世代のグランピング市場を構築していけるという。
星のや富士の差別化戦略の中心にあるのは「里山の概念」。
「里山は、自然と人間が共存する場所。適度な人間の介入と管理により動植物の豊かな生態系が保全され、人々はその自然を自分たちの生活に役立ててきました。
しかし、文化の発展や経済成長に伴い、田舎から都市部に人口が流出し、人と人とのつながりや自然とのつながり、つまり里山の文化が希薄になりました。現代人は『人間性を回復したい』という潜在ニーズを抱えていると考えています。自然との共生というコンセプトを実感できるコンテンツを提供することがグランピングの本質であり、人々が求めていることだと感じています」(松野氏)
星のや富士では毎シーズン3〜4つほどのコンテンツを用意しているという。17年には「大人の食育」をテーマにした狩猟体験ツアーを開催。地元猟師とともに富士山麓の森に入り、わなを使用した狩猟方法で鹿を狙う様子を見学できるという内容だ。鹿やイノシシが害獣化してしまい、地域の課題になっている点に着目し、駆除した鹿を食材(ジビエ)にする。
普段スーパーで手に取る「肉」はどのような流れの中で生まれたのか。生き物の価値を再認識できるとともに、地元猟師との交流というそこでしか味わえない体験を提供している。
その他にも、アウトドアは「晴れの日のレジャー」という概念を覆すチャレンジにも意欲を見せる。冬グランピング、雨グランピングと銘打ち、冬には客室のテラスにこたつを設置し、屋外の寒さとこたつの中は温かいという冬の屋外でも快適に過ごせる工夫を凝らす。
雨グランピングでは、客室にポンチョや長靴を用意したり、水に濡れるとデザインが変わる大きな傘を森の中に複数吊るしたりするという。雨でも外に繰り出したくなるような仕掛けだ。そうすることで、1年中需要があり続ける状態が生まれ、市場の可能性が広がっていく。
「自然の中に身を投じ、心身ともにリラックスできることがグランピングの醍醐味。里山の概念をもとに、四季折々の魅力や地域の特徴を体感できる空間づくりを今後も続けていきたい」(松野氏)
コロナ禍での三密を避けたアウトドアニーズや、流行りのレジャーというブランディングがグランピングの価値を押し上げている。市場は成長のまっただ中にいて、どこでどんなグランピング施設をオープンしてもある程度の集客は期待できるだろう。
しかし、事業者はその状況にあぐらをかくのではなく、今後始まるであろう生き残り合戦に向けた差別化戦略を練らないと、市場から淘汰されてしまうかもしれない。
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