「駅のホームドア」が普及しているが、安全基準はどうなのか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(8/8 ページ)

» 2021年11月20日 08時27分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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 旅客設備についてはバリアフリー法に基づく「移動など円滑化のために必要な旅客施設又は車両などの構造及び設備並びに旅客施設及び車両などを使用した役務の提供の方法に関する基準を定める省令(移動円滑化基準)」がある。こちらはホームドアの基準があるけれども「ホームドア、可動式ホーム柵、内方線付き点状ブロックそのほかの視覚障害者の転落を防止するための設備が設けられていること」がある。

 この省令にもガイドラインがあって「可動式ホーム柵は、柵から身を乗り出した場合及びスキー板、釣り竿など長いものを立てかけた場合の接触防止の観点から、柵の固定部のホーム内側の端部から車両限界までの離隔は40センチメートル程度を基本とする」「プラットホームの線路側端部において、列車が停車することがないなど乗降に支障のない箇所には、建築限界に支障しない範囲で高さ110センチメートル以上の柵を設置する」の数値や「ホームドアや可動式ホーム柵の可動部の開閉を音声や音響で知らせる」などがある。

 ただし、これらの基準も「乗客がホームから落ちないように」という前提のみだ。ホームドアの高さは示されていても、ドア下辺の高さについては触れられていない。どの程度開口して良いか。ホームに接触すると水はけが悪くなる。しかし、開口部が高ければ白杖を使う人がホームドアを認知しにくいだろうし、幼児が這って通り抜けてしまう。

 そして、これらの基準でまったく想定されていない「線路側からホームへの脱出」という事件が起きた。今後は、「車内非常時などに線路側からホーム側へ脱出できる措置をとること」「○メートルごとに非常扉スイッチの所在を明示する」などを盛り込む必要があると思う。天井まで届くガラス張りのホームドアは、非常時にどこから出られるか矢印がほしい。

 もちろんそれを見越して、国土交通省も16年から「駅ホームにおける安全性向上のための検討会(PDF)」を開催したけれども、18年に中間とりまとめを作った段階で動きがない。

 安全面の統一基準を定めておかないと、コストやデザインを優先した「危険なホームドア」が作られかねない。ホームドアの普及が急速に進むことは大いに良いことだが、それだけに安全基準の見直しを急いでほしい。新たな問題に直面したいま、検討会の再開を望みたい。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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