こうしたことからすれば、人事部門は「スキル観点の人材ポートフォリオ」とともに「就労意識観点の人材ポートフォリオ」に無関心ではいられません。自社の従業員について上半分(タイプI、II)が優勢になるか、下半分(タイプIII、IV)が優勢になるかはきわめて重要な問題です。
真に活力があり、持続的に発展できる組織とはどういった組織でしょうか。スキルに長けた人材を集める組織でしょうか。しかし、採用時にいくらスキルに長けていても、年月が経つうちにそのスキルが陳腐化し、就労意識も冷めるというのは人間によく起こることです。国内ではジョブ型採用の流れが強まり始めていますが、組織は人の手やアタマ(=スキル)だけに目を向けて採用するという感覚でよいのでしょうか。経営学者のピーター・ドラッカーは次のように言っています。
「働く人を雇うということは、人を雇うということである。手だけを雇うことはできない。人にとって、仕事との関係ほど全人格的な関係はない」。「人の成長ないし発展とは、何に対して貢献するかを人が自ら決められるようになることである」。───『現代の経営』より
人事部門が行う真の人材育成とは、手やアタマを研ぐだけの研修実施ではなく、従業員の「ワーク・ディベロップメント意識」を育むということです。
この「ディベロップメント(development)」に込めているニュアンスは、開発、発展、進化、豊かにすること、広げること、耕すこと、意味づけすることなどです。成果主義やジョブ型分業のもとでは、定量化された評価軸によって自分の仕事のよしあしが決められます。そんな中にあっても、仕事や働くことには達成数値以外の要素も多分にあり、自分の可能性を無限に引き出す機会になりうるととらえる。そして実際そう試みる心の姿勢が「ワーク・ディベロップメント意識」です。
「ワーク・エンゲージメント」はどちらかというと熱中、没頭、献身といった心の活性状態に着目した概念です。それに対し、本書で用いる「ワーク・ディベロップメント」は働くことに対する取り組みに着目する点が異なります。目の前の仕事を広げようとする、深めようとする、何か貢献につなげようとする、その結果、心が活性化されてエンゲージド(engaged)状態になる。「ワーク・エンゲージメント」を高めようとすれば、その根っこにある「ワーク・ディベロップメント意識」にはたらきかけをしなければなりません。
成果主義やジョブ型採用が強まれば強まるほど、就労意識の醸成が重要な人事テーマになるでしょう。事業組織は従業員が持つスキルの固まりである以上に、就労意識の固まりでもあるからです。(村山 昇)
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