今回のプロジェクト、現時点で12個のトイレの建設に14.2億円が日本財団の持ち出しで使われている。渋谷区公園課によると、現在、区内には合計82個の公共トイレがあるという。既に十分すぎるほどトイレがあるように感じる。本プロジェクトで再建されるトイレは合計17カ所。残りの5カ所の再建費用や今後の清掃費用などを考えると、5Kに該当するトイレは撤去したほうが安上りだったのでは? という疑問が出てくる。
「今までの公共トイレは、とりあえず”あればいい”という考えで設置されていた側面が強いと思います。商業施設のトイレは集客の観点から改善されていましたが、公共トイレは見過ごされていました。やむを得ず使うという考えが広がっていたと思います。
公共トイレは、その土地に住む人からすると邪魔なものだともいえます。自宅に帰ればトイレがあるので、当然ですよね。しかし、その町に遊びに来る人、特に身体が不自由な人や子連れなどからするとトイレの存在が大事だと思います。『トイレが整備されたことで、外にでかけられるようになった』などの声も聞くようになり、公共トイレは必要なものだとあらためて感じました」(日本財団)
筆者は取材の事前準備として12カ所のトイレを全て巡った。確かに5分ほど待っていると必ず数人はトイレを使用していたように見受けられた。公園に設置されたトイレには、公園に設置されたトイレでは、子どもや小さい子連れの母親などがよく利用する姿が見られた。道の途中に設置されたトイレは散歩中の男女が利用していた。駅近辺のトイレでは、タクシー運転手やベビーカーを押す父親の姿も見かけた。
使用頻度や使用感に関する調査は現在実施中とのことだが、平日と休日の両方で利用者属性やトイレの感想などを利用者にヒアリングしているという。
12個のトイレをめぐった筆者が最も変化を実感した点を挙げるとするならば、「複数出入口があること」だ。今までの公共トイレは出入口が1カ所しかないものもあり、トイレの奥に向かって進んでいくと、後ろから襲われたときに逃げられない怖さがあった。一方、「神宮通公園」「恵比寿東公園」「恵比寿駅西口」の公共トイレは出入口が2カ所あり、それぞれがつながっているため奥に行くに連れて生まれる圧迫感や恐怖心が軽減される仕組みになっている。
実際に恵比寿東公園のトイレをデザインした槇文彦氏は「風通しや日当たりを考え、ユニバーサル・トイレと男性用、女性用の個室を分散させました。また、個室のスペースと配置は、外部からの視線をコントロールし、利用者の安心を妨げる死角を生まないように配慮している」とコメントしている。
全17個の公共トイレが完成するのは2022年だ。日本財団によると、米国やインドから「同じようなトイレが作りたい」と問い合わせがあったという。海外からの注目も集まっているようだ。5Kといわれ、避けてきた人も多いであろう公共トイレ、汚名返上となるか。
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