LDHのファンアプリはなぜ、海外ユーザーを5倍に伸ばしたか サイバーエージェント専務が手掛ける「エンタメDX」：きっかけは町田啓太さんの“リクエスト”（1/3 ページ）

[房野麻子，ITmedia]

　エンターテインメント業界は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって大きな影響を受けている。特にライブを中心に活動しているアーティストは、収入を得る機会はもとより大事なファンとの接点も絶たれてしまう。

　そこで積極的に取り組まれているのが、ライブのオンライン配信やアプリを使ったファンコミュニティー、いわゆる「エンタメのDX化」だ。例えば、世界的に人気の韓国のボーイズグループ「BTS（防弾少年団）」は、ファンコミュニティープラットフォーム「Weverse」を使ってファンと強固にコミュニケーションし、有料コンテンツやユーザー限定コンテンツを提供していることで有名だ。

　日本でも、サイバーエージェントとLDH JAPANの合弁によって2020年6月に設立されたCyberLDHが、LDH所属アーティストが出演するコンテンツを楽しめるコミュニケーションサービス「CL（シーエル）」を展開し、ユーザーを増やしている。

　今回、サイバーエージェントで「エンタメDX責任者」を務める、専務執行役員 山内隆裕氏にインタビューする機会を得た。CLが生まれた背景やリリース後の歩み、今後の展望などを聞いた。

LDHのファンアプリ「CL」

　「次世代のエンターテインメントを作りたい」──サイバーエージェントとLDH JAPAN、両者の思いから生まれたというCL。ダンス＆ヴォーカルユニット・EXILEや三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEなど、LDHが有する人気アーティストのライブ映像や生放送番組といったエンターテインメントコンテンツと、サイバーエージェントが「ABEMA」で培ってきた映像配信技術を融合することで生まれた動画配信＆ファンコミュニティーサービスだ。

CLのオンデマンド番組コンテンツ

　料金無料の「フリープラン」、月額税込み1100円の「CLプレミアムプラン」、ファンクラブに登録しながらCLの有料会員にもなる「CLプレミアムPLUSプラン」（ファンクラブ会員＋月額税込み1100円）の3つのプランがあり、有料会員の中では7：3でCLプレミアムPLUS会員が多い。会員数は公表されていないが、20代女性の占める割合が最も高い。LDHの情報がCLに集約されており、“推し活”に必須のアプリとなりつつあるという。

　LDHは「LDH TV」という映像配信サービスを独自に展開していたが、20年7月でサービスを終了し、CLに移行した。LDH TV時のファンはほぼ移行したが、リリース後の1年間でCLだけを利用するCLプレミアム会員も増えているという。

　CLでは、「オンラインライブ」や「オンデマンド番組」、さらに、アーティストのより自然な姿を見られるカジュアルな「ライブキャスト配信」が人気だ。有料会員であれば、オンデマンド番組やライブキャスト配信は追加課金なく視聴できる。

　ライブキャスト配信では視聴するファンがコメントを残すことができ、リアルタイムでアーティストとつながる感覚が好評だ。また、視聴者は「エリア分け」され、アクセス集中時でもコメントが確実に表示されるように工夫している。ライブキャスト配信の終了後には、SNS上で「エリア7にいた人集合！」「エリア5の結束感最高！」などの投稿が見られ、エリア分けはファン同時の交流にもつながっているという。

海外MAUが1年間で5倍に　きっかけは町田啓太さんの“リクエスト”

　多言語化も強化している。21年8月には、ライブキャスト配信者の音声を認識・リアルタイム変換し、自動で他言語字幕を表示するリアルタイム字幕機能を追加した。

　この機能は、Netflixオリジナルドラマ「今際の国のアリス」に出演し、国外にもファンの多い劇団EXILE町田啓太さんのリクエストによるもの。1月20日のライブキャスト配信で町田さんが要望し、半年ほどで対応した。リリース時には海外ファンからも多くの反響があり、海外MAUが1年間で5倍に。8月に実施した町田さんのトークライブは約40％が海外ファンだったという。

リアルタイム字幕機能。日本語、英語、中国語（簡体字、繁体字）、韓国語、タイ語、インドネシア語の7言語から選択できる

　また、決済機能を改善することで、ユーザーが会費の支払いを忘れて意図せず退会することが減り、自主退会者が2分の1に減少したそうだ。