松屋銀座で使える日本円連動ステーブルコイン「JPYC」が伸びている理由(4/5 ページ)

» 2021年12月28日 07時00分 公開
[星暁雄ITmedia]

日本はステーブルコインで立ち遅れた

 冒頭でお伝えしたように、日本では「円連動の仮想通貨、発行は銀行・資金移動業のみ」と報道された。これは公式発表ではないが、仮想通貨業界の人々は「既定路線だ」と受け止めている。一方、JPYC社の岡部氏は「我々には影響はない」と語る。JPYCには法的根拠がすでに存在するためだ。

 ステーブルコインは、もともとは仮想通貨(暗号資産)の一種として台頭した。米ドル連動のTether(USテザー)、USDC(USDコイン)、DAI(ダイ)などが流通している。米ドル連動のステーブルコインは、8月の段階で総額約12兆円が発行済み。仮想通貨のように扱えるステーブルコインは、値動きが激しい仮想通貨と併せて取引や投資のツールとして盛んに使われている。ところが日本円建てステーブルコインはなかなか立ち上がらなかった。

世界ではドル建てステーブルコインは、仮想通貨全体でも時価総額上位に入る

 2017年、日本円建てステーブルコインの実証実験として「ZEN」(JPYZ)が発行されている。だが一般市場に流通するには至らなかった。

 GMOインターネットの米国子会社GMO-Z.com Trust Company(GMO Trust)は、3月より円連動ステーブルコイン「GYEN」を発行している。ただし日本に住む人々はGYENを購入できない。GYENは米国銀行法を準拠法とし、海外の取引所だけで取り扱われている。

 日本でステーブルコインが立ち遅れている理由は法規制だ。日本では、17年4月より施行された改正資金決済法により仮想通貨(現在は暗号資産)の法的枠組みを定めた。仮想通貨の法整備の時期としては、世界的に見ても早かった。ただし、このとき仮想通貨を「通貨建て資産を除く」ものと定義した。法定通貨に対して値動きを抑えるステーブルコインは考慮されていない。日本でのステーブルコインの法的枠組みが定まらないまま、4年以上の時間が空費された格好だ。

 報道された「銀行が発行するステーブルコイン」は、すでに準備が進んでいる。法人向けに銀行発行の民間デジタル通貨を目指すDCJPYを、デジタル通貨フォーラムが準備中である。このフォーラムには三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行の3大メガバンクやNTTグループなど約70社が参加し、事務局として仮想通貨取引所のディーカレットが参加する。DCJPYは22年後半にも流通を始めると伝えられている。

 これらのステーブルコインやデジタル通貨とは異なり、JPYCは資金決済法が定める前払式支払手段として発行される。前払式支払手段とは商品券、Amazonギフト券、交通系ICカード(Suicaなど)、プリペイドカード、それに〇〇Payと呼ばれる決済サービスなどで広く使われている決済手段だ。ブロックチェーン上の前払式支払手段としては、18年にスタートアップ企業LCNEM(現在はCauchyE)が「LCNEMステーブルコイン」を発行した事例があるが、大きく広がるには至らなかった。JPYCが使われるようになった背景には、前述したイーサリアムやPolygonの利用者がある程度のボリュームに増えていたことがある。

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