カシオの“G-SHOCK携帯”、9年ぶりの新機種 復活の狙いと舞台裏をKDDIに聞いた4年に及ぶ地道な交渉(3/5 ページ)

» 2021年12月30日 08時00分 公開
[樋口隆充ITmedia]

「これまでで最も困難なミッション」 4年に及ぶ復活の舞台裏

 新機種の製品化には、近藤マネジャーによる、約4年に渡る地道な交渉も欠かせなかった。「これまでで最も難易度が高いミッションだった」という。

 近藤マネジャーは02年、KDDIの商品企画に着任。以来20年間、KDDIの製品ラインアップを支え続けている。着任当初からカシオの製品を担当し、初めて担当したのがKDDIとして初めてカメラ機能を搭載したG'zOneシリーズの「C3012CA」というモデルだった。そんな背景から同シリーズ自体への思い入れは強かった。

photo シリーズ10周年記念モデル「G'zOne TYPE-X」(出典:KDDI公式オウンドメディアの記事

 「今、カシオが『G'zOne』シリーズをデザインしたら、どんな機種になるのだろうか」

 そんな疑問から17年末、歴代モデルをデザインした、カシオの井戸透記さんに突撃訪問。「20年近い関係で、デザインへのこだわりなどを勉強させてもらった」(近藤マネジャー)という人物に、シリーズ復活に向けた自らの思いを打ち明けるとともに「仮にデザインをオファーするなら、受けてくれますか」と尋ねた。KDDI社内で企画を立案するに当たって、コンセプトのデザイン案があると話が進みやすいためだ。

 近藤マネジャーの打診に対し井戸さんは「コンセプトデザインまでであれば」と快諾。井戸さんは当時デザイン部署の室長で、コンセプトデザインであれば一部署の権限でデザインすることができたのだ。そうした事情が後押しし、18年3月にデザイン案が完成した。

 だが、デザイン案の完成が長い苦難の始まりでもあった。

不確定要素だらけの船出 「全てのレールが敷かれていなかった」

 デザイン案完成後は、通常であれば、キャリア側がデザインをブラッシュアップするなど企業間調整で製品化に至るケースが多い。G'zOneシリーズは、カシオが携帯事業から撤退していたこともあり、従来通りの業務フローでは製品化できないという特殊な事情を抱えていた。

 近藤マネジャーは当時の状況について「全てのレールが敷かれていなかった」と話す。というのも、当時は製造の委託先選定はもちろん、カシオが外部からデザイン受託を引き受けた実績がこれまで一度もなかったのだ。

 KDDI社内でも本格的に企画案を提出しておらず「製品化も決まってないし、デザインを最後までカシオが担当してくれるかも分からない。製造元も決まってない中で始まったので、全てが不確定要素だらけだった」と近藤マネジャー。中でも最大の障壁となったのは、製造の委託先選定だった。

 近藤マネジャーは社内調整と並行し、早速、委託先の選定に着手した。真っ先に脳裏に浮かんだのは、TORQUEシリーズを手掛けていた、京セラだった。カシオの事業撤退後、近藤マネジャーは京セラ製品の担当が増え、関係者との信頼関係もあったため、可能性を感じていたのだ。

 「G'zOneシリーズを復活させられるのは、京セラしかない」(近藤マネジャー)

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