クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

スタッドレスタイヤはどうして氷上でもグリップするのか高根英幸 「クルマのミライ」(2/4 ページ)

» 2022年01月04日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

さまざまな素材を配合して氷雪路での性能を確保

 タイヤの接地面に使われているゴムには、さまざまな技術が投入されている。まずは素材だ。

 メインは石油由来の合成ゴムだが、ゴムの木から採取される天然ゴムも優れた特性があり、一定の配合率で利用されている。そのためタイヤメーカーは、ゴムの木を植樹することで資源の確保とCO2の吸収に貢献していたりする。

 その他にも強度を高めるカーボンブラックや、ゴムをしなやかにするためのオイル、ゴムの劣化を抑制する劣化防止剤、低温性にも優れ撥水性を向上させて転がり抵抗を軽減するシリカなど、ゴムにはさまざまな素材が配合されている。それらを混ぜ練り合わせて作り上げることからコンパウンドと呼ばれるのである。

 トレッド面の剛性を高めるスチールベルトやホイールとの結合を高めるビードワイヤーなど、構造部分まで含めると20種類以上の素材が使われている。スタッドレスの場合、さらに素材への工夫が凝らされている。

 夏タイヤに比べたスタッドレスなどの冬タイヤの特徴の1つが、低温下でもゴムが硬くならないことだ。これはオイルを多く含ませる方法や、天然素材の利用や気泡の採用などによって実現している。

 例えばブリヂストンは発泡ゴムと呼ぶ、スポンジ状にしたゴムをトレッド面に使うことで、スタッドレスタイヤに求められる性能を引き上げている。気泡を連続的につなぎ合わせることで路面の水膜を吸収し、グリップさせるのだ。

発泡ゴムを使ったブリヂストンのスタッドレスタイヤの歴史は30年を超える(ブリヂストン)

 また発泡ゴムは、ゴムが硬化してもトレッド面のしなやかさを維持しやすいのも、大きな魅力だ。元々オイルに頼ることなく柔らかいコンパウンドを実現しているため、走行による運動や発熱によってオイルが抜けてしまうことも少ない。そのため、保管状態や使い方によっては驚異的なほどトレッド面の柔軟性を長期的に保つのである。そのため一般的にスタッドレスタイヤの寿命は3年から5年といわれるが、それを大きく超えても柔軟性を保っていることが多い。

 すでに特許は切れているようだが他社が追随しないのは、これまで培ったノウハウがほとんど使えなくなってしまうため、イチから開発をやり直すリスクと、発泡ゴムの効果を天秤にかけると採用できない、という理由が大きい。また発泡ゴムによる生産コストの上昇を価格に転嫁できない、と考えているメーカーもあるようだ。

 難点は舗装路を走ると摩耗しやすい、ということだろう。発泡ゴムは気泡を含んでいる分、磨り減りやすい。しかしこれも氷雪路での性能を考えれば仕方のないところ。安心を買っているという点では保険のようなものだ。

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