クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

スタッドレスタイヤはどうして氷上でもグリップするのか高根英幸 「クルマのミライ」(3/4 ページ)

» 2022年01月04日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

 ユーザーにおいてもブリヂストンのブリザックは価格が高いというイメージがある。高くても滑りにくい、安心感があるため支持されているが、他の国産メーカーはワンランク価格帯を下げてユーザーを獲得している。

 さらに各メーカーに共通した傾向として、スタッドレスタイヤは最新モデルがデビューしても、従来品も数年間は生産が続けられる。旧製品は開発コストを回収した商品として価格が引き下げられ、低予算でも十分な性能を発揮するスタッドレスタイヤとして提供することで、シェアを確保しているのだ。

 保管状態や使い方によってもスタッドレスタイヤの寿命やグリップ性能は大きく変わってくるが、同じように使った場合、欧州やアジアメーカーのタイヤに比べ、国産メーカーのほうが経年劣化が少ない傾向がある。これは欧米と日本では年間走行距離の違いからタイヤの耐用年数にも差があり、日本のユーザーは比較的長く1セットのスタッドレスを使い続けることを考慮しているからだろう。

 欧州のタイヤメーカーも日本で販売しているスタッドレスタイヤは日本でも開発しているが、やはり国産メーカーの製品の方が日本市場にはマッチしている印象だ。またスタッドレスに限らず、価格の安さで日本市場に浸透してきたアジアンタイヤも、最近は性能と価格で二極化する傾向にある。ユーザーにとっては選択肢が増えるのは嬉しいだけでなく、取捨選択する際の悩みにもなるので難しいところだ。

トレッドパターンの工夫でも氷雪性能を確保

 スタッドレスタイヤが氷上でもグリップするメカニズムは、形状によるところも大きい。形状に関してもスタッドレスは夏タイヤ以上に工夫が盛り込まれている。

 ブロックに細かいサイプ(切り込み)を入れることで、毛管現象を利用して氷表面の水膜を吸収すると共に、ブロックが接地面で倒れ込むことによりサイプのエッジが氷に貼り付くようにグリップ力を発揮する。

 初期のスタッドレスタイヤは、サイプの影響でブロック剛性がひどく低下し、ドライ路面の首都高速など怖くて走れたものではなかった。しかし現代のスタッドレスはより細かく深いサイプを採用していながら、ドライ路面での安定性も高まっている。

 これは3Dサイプと呼ばれるもので、内部で立体的な形状とすることにより、両隣のサイプと干渉して支え合う構造を実現している。このサイプを実現するための金型は企業秘密としてどのタイヤメーカーも公開していない。それくらいスタッドレスの生産技術は企業秘密が多いのである。

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