クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

なぜクルマのホイールは大径化していくのか インチアップのメリットとホイールのミライ高根英幸 「クルマのミライ」(2/5 ページ)

» 2022年01月18日 08時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

「低扁平は高性能タイヤ」の始まり

 タイヤの低扁平化を最初に始めたのは、ドイツだった。速度無制限(現在では一部分のみだが)のアウトバーンをもつドイツでは、60年代後半からクルマの高速性能が高められてきた。クルマの高速性能が高まれば移動時間が短縮できる=時間を買うことができる、という論理から、富裕層や高所得者層が高性能なクルマを要求していたのだ。

 そこで70年代、ポルシェは911をより高性能化させるべくターボチャージャーを採用した930ターボ(現在、呼称は911ターボに統一)を開発した。ところが、その性能をカバーできるタイヤが存在しなかったために、ピレリに新しいタイヤを開発させたのである。それがチンチラートP7と呼ばれた、後に高性能タイヤの代名詞にもなったP7という扁平率50%のタイヤである。

 余談だが、ポルシェ911はRR(リアエンジン・リアドライブ)という特異な構造ゆえ、トラクション性能に優れるが同時にタイヤの負担も凄まじく、タイヤメーカーエンジニア泣かせのクルマとして君臨してきた。そのため911の認証タイヤに指定されることは、タイヤメーカーにとって名誉に近いものでもあった。

 911がターボによるドーピングで、爆発的な加速力と高速性能を得るには、それを支えられるタイヤが必要不可欠だったのだ。ここからタイヤの低扁平化は進んでいくことになり、それとともにホイール径も拡大されていくのである。

 タイヤホイールの大径化はボディの大型化も影響しているが、理由はそれだけではない。ボディサイズに制限があり大型化していない軽自動車でも、ホイールの大径化は進んでいる。高速走行時の安定性を向上させたり、ブレーキ性能を高めたりするためにも大径化は貢献しているからだ。

 また、ドイツの大型セダンなどを見れば分かるように、高級車や高性能車が19インチ、20インチといった大径ホイールを採用しているのは、高性能を伝えるイメージを利用しているのも確かだ。大径ホイールは決して乗り心地を向上させるアイテムではないが、最新の高級セダンらしいイメージの演出には欠かせない要素なのである。

高速道路を疾走するメルセデス・ベンツSクラス。高性能な高級セダンをスタイリングからも印象づけるには大径ホイールは重要なアイテムなのだ

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